2019シーズン、J1制覇を成し遂げた横浜F・マリノス。常に主導権を握り相手を圧倒するアタッキングフットボールは、観るものを魅了した。15年ぶりの優勝を勝ち取ったチームの軌跡とターニングポイントとなった出来事を、WEBマガジン『ザ・ヨコハマ・エクスプレス』の責任編集を務める、マリノスの番記者・藤井雅彦氏に解説してもらった。
※本記事は、藤井雅彦:著『横浜F・マリノス 変革のトリコロール秘史』(ワニブックス刊)より一部を抜粋編集したものです。
新キャプテンは三者三様のパーソナリティ
新シーズンを戦うためのチーム作りと並行して、ポステコグルー監督は2019シーズンのキャプテン選びという課題を抱えていた。
石垣島での一次キャンプ途中には栗原勇蔵、李忠成、飯倉大樹、ドゥシャン、扇原貴宏、天野純、喜田拓也の7選手を食事会場に集め「チームの中心になっていってほしい」と話した。年齢やキャリア、チーム内での立ち位置や影響力などから、この面々のなかから新キャプテンを選ぶ考えが見え隠れした。
ようやく結論が出たのは開幕の2日前だった。
ポステコグルー監督は扇原、天野、そして喜田の3選手を監督室へ呼び、直々にキャプテン就任を伝えた。練習試合でキャプテンマークを巻いていた3選手とはいえ、3人並列という答えは過去に例のない、やや意外なものであった。
大役を意気に感じ、さらにパワーに変えられるのが喜田という男だ。
「自分からやりたいと名乗り出るものではなく、自然と任されるもの、与えられる立場だと思っている。自分にとってマリノスのトップチームでキャプテンを任されるのは特別なこと。ボスから任されたときは自然と力が湧き上がってきた」
育成組織時代からチームの中心選手として、多くのシーンでキャプテンを務めてきた。トップチームでも胸を張って先頭に立ち、堂々とキャプテンマークを巻く。これ以上ない人選といえるだろう。
喜田とは正反対に「自分はキャプテンをやるタイプではない」とこともなげに言えてしまうのが天野純というキャラクターであり、魅力だ。言動は常にマイペースで、気負うような場面はほとんどない。「一番に求められるのはチームを勝たせるプレー」と自身に言い聞かせ、まったくと言っていいほど重圧を感じていなかった。
その中間地点にいたのが、扇原だったのかもしれない。
中澤佑二が戦線離脱した前年途中からキャプテンマークを託されていた。育成組織出身でもなく、在籍年数が長いわけでもない。ゆえに必要以上に重圧を感じなくてすむという見方もできたが、実はプレッシャーと戦う日々に神経をすり減らしていたと明かす。
「自分は副キャプテンでもない立場で突然、監督からの指名でキャプテンマークを巻くことになりました。横浜F・マリノスというクラブの価値は理解しているつもりだったし、絶対にJ2に降格させたらアカンという思いで戦っていました。佑二さんや勇蔵さんのように長く在籍している選手もいたなかで、自分がキャプテンを務める責任は想像以上に重いものでした」
まさしく三者三様のキャプテン3人体制がこうしてスタートした。