スティルトン

くさい度数★★★★★

イギリス産のスティルトンは、ゴルゴンゾーラ、ロックフォールと並んで、世界三大ブルーチーズのひとつである。くさみはいずれも、ナポレオンを惑わす女房のチーズの類である。

▲スティルトン イメージ:PIXTA

牛乳を乳酸菌で発酵させたあと、青カビ(ペニシリウム・ロックフォルティ)で熟成させて仕上げるのが特徴で、青カビを混ぜることにより、チーズの内部から熟成が進んで、独特の風味がつくられる。

すなわち、青カビが牛乳に含まれるたんぱく質を分解し、うまみ成分(アミノ酸)をつくり出して熟成を進めていく一方、青カビは乳脂肪も分解し、特有のにおいを生み出すのである。

スティルトンという名称は、EUの規定〔原産地名称保護制度=PDO〕に則った地域と製造法でつくられたものにしか使用することはできず、現在はイギリス3県にある6社の製造所でつくられているだけである。

ブルーチーズの中ではわりとマイルドな味わいだが、口に入れるとねっとりした食感があり、舌をピリピリと刺すような刺激のあと、深いコクが湧き出てくる。そして、においがなにしろ強烈で、あの手のにおいのチーズの代表格のひとつである。

しかも、青カビがマーブル状に混ざった外見は、このチーズが好きな人たちには美しく見えるが、苦手な人間にとってはグロテスク以外の何ものでもないだろう。もちろん、この青カビは体に害はないのだが、好き嫌いがはっきり分かれる食べものである。

とくに歴史的に乳製品を食べる習慣のなかった日本では、かつてこのようなチーズを食べるのはよほどの好事家くらいであったが、最近はワインブームも手伝って積極的に愉しむ人が増えている。

イギリスでは国民的なチーズ イメージ:PIXTA

一方、スティルトンの原産地のイギリスでは、エリザベス女王も毎日食べているという国民的チーズで、クリスマスにはスティルトンにポートワインを合わせるのが定番だという。

青カビを使わないフレッシュタイプのホワイト・スティルトンもある。

自らを“発酵仮面”と称し、世界中のチーズを食べつくしてきた小泉教授に、それぞれの「くささ」の度合いについて星の数で五段階評価してもらった。 発酵食品は宿命的に、くさいにおいを宿しているが、それこそが最大の個性であり魅力なのだ。

「くさい度数」について
★あまりくさくない。むしろ、かぐわしさが食欲をそそる。
★★くさい。濃厚で芳醇なにおい。
★★★強いくさみで、食欲増進か食欲減退か、人によって分かれる。
★★★★のけぞるほどくさい。咳き込み、涙する。
★★★★★失神するほどくさい。ときには命の危険も。

※本記事は、小泉武夫:著『くさい食べもの大全』(東京堂出版:刊)より、一部を抜粋編集したものです。