エピキュアー

くさい度数★★★★★以上

チーズのくさいものランキングで、私がいつもトップに挙げるのが、ニュージーランド産のエピキュアーである。そのくささは、私がこれまで食べてきたさまざまな食品の中でも群を抜いていて、アラバスターというにおいの度合いを測定する機器を使った計測でも、科学的に裏付けられている。

▲ニュージーランド イメージ:PIXTA

アラバスターによるくさい食品ランキングは、第1位はシュール・ストレミング、第2位はホンオ・フェ、第3位はエピキュアーチーズ、第4位はキビヤック、第5位は焼きたてのくさや、第6位にフナ鮓(ずし)、第7位が納豆であった。

つまり、エピキュアーは、くさややフナ鮓を超える、ベスト3に入るくさい食品なのである。1位のシュール・ストレミングと共通しているのは、缶の中で熟成させる点だ。シュール・ストレミングはニシンの缶詰だが、エピキュアーはチーズの缶詰なのである。

▲シュール・ストレミング イメージ:PIXTA

シュール・ストレミングと同様、エピキュアーの入った缶詰も、乳酸菌の発酵によって生じた炭酸ガスや硫化水素などの気体のためにまん丸く膨満し、一触即発の様相を呈している。

実際に、缶を開けるとその瞬間、缶の中に充満していた猛烈なにおいが一気にほとばしり出てきて、これをまともにくらえば思わず立ちくらみするほどだ。

とにかく、他のチーズにない特異なすごみのあるにおいをもっている。エピキュアーのにおいにいったん魅了されたら最後、ブルーチーズのにおいなんか屁みたいに感じて物足りなくなってしまう。

味も酸味が強くてコクがあり、やみつきになること請け合いである。

自らを“発酵仮面”と称し、世界中のチーズを食べつくしてきた小泉教授に、それぞれの「くささ」の度合いについて星の数で五段階評価してもらった。 発酵食品は宿命的に、くさいにおいを宿しているが、それこそが最大の個性であり魅力なのだ。

「くさい度数」について
★あまりくさくない。むしろ、かぐわしさが食欲をそそる。
★★くさい。濃厚で芳醇なにおい。
★★★強いくさみで、食欲増進か食欲減退か、人によって分かれる。
★★★★のけぞるほどくさい。咳き込み、涙する。
★★★★★失神するほどくさい。ときには命の危険も。

※本記事は、小泉武夫:著『くさい食べもの大全』(東京堂出版:刊)より、一部を抜粋編集したものです。