「国の借金1110兆円」の正体

新保 今回の10万円……特別定額給付金という支援が決まったのは良かったと思うのですが、いわゆる「出口戦略」ではないですけれども、収束に向かっているからという名目で政府がお金を出し渋るのではないか、という国民からの不安、不満も聞かれます。

大石 絶対にそれはあるでしょうね。日本は「財政再建至上主義」に冒されてしまった国ですから。とにかく「財政に負担を掛けることは正しくない」というのが国民にまで共有された認識になってしまっているんですが、そうではありません。先ほども言いましたように、今のような国民存亡の危機にこそ、政府がその役割を果たさなければならないんです。

新保 やはり、そうなんですね。

大石 たとえば、つい先日も、財務省が「国の借金が1,110兆円」という数字を出しましたね。国債だけで990兆円ぐらいでしょうか。その他の短期借用金なんかを入れてそのぐらいの金額なんですが、実はこれ、財務省は国の借金とは発表していないんですよ。メディアが「国の借金」だと書いているんですね。ところが、これは国の借金ではありません。政府の国民に対する、借金という言い方も良くないんですが、いわゆる債務なんですね。つまり、政府の債務は、イコール民間の債権ですから、「それだけ民間が債権を持っている、ということなんです」。つまり、政府の財政赤字はそれと同額の民間貯蓄を生み出しているのです。民間貯蓄が財政赤字をファイナンスしているのではないのです。

新保 確かに、簡単には扱えない数字です……。

大石 われわれの周辺では「池上彰問題」という言い方をしているんです。つまり、池上さんがいろんなチャンネルに出てきて、大変なことになっていると主張する。「これ以上、財政出動してしまったら将来、増税をしなければならなくなるかもしれない」などという、私に言わせるととんでもない脅かしをされているわけです。でも、そんなことにはなりませんよ。国債の発行というのは、銀行が引き受ける限りにおいては信用創造を通じた資金、預金の増加なんですよね。こうした状況を国民の皆さま方にちゃんとご理解いただかなければいけません。

▲ふたりはラジオ番組で「国土」の視点から有益な情報を届けている

新保 確かに、メディアがきちんとした理解をしてない中でそういう報道をしていくことには、私も疑問を感じています。今回のコロナの件でも、どこかメディアが政府からの情報を比較的そのまま流していて、もちろんそのまま流すのが悪いということではなく、例えばそこにある問題点などをあまり追求していない印象も受けるのですが、そのあたりはどのようにお感じでしょうか。

大石 これは新保さんもご存じないかと思いますが、世界中の国は国債を発行していますけれども、国債を発行している国で国債の償還費を予算計上しているのは日本だけなんです。つまり、世界の国々は、発行した国債は償還する必要がないと考えているということなんですよね。それはそうなんです。皆さん方に引き受けていただいた国債は、場合によっては永久債として回していけばいいわけです。しかし日本は、今年の予算を見ても14兆7,000億の償還費を計上しているんですね。こういうことに関しても、はっきり言えばメディアがブロックしている。本来、主権者に正しい情報を伝えるのがメディアの役割にもかかわらず、ですよ。あるいは国の借金という言い方で、ゆがめた言い方をしているわけで、そこらへんは問題だと思いますね。