怒れる若者たちと「アメリカン・ニューシネマ」
1960〜70年代は「アメリカン・ニューシネマ」の時代といわれる。主人公がしばしば悪人で、最後はハッピー・エンドでないことが多い。若者による規制価値観の打破運動、黒人解放運動、公民権運動、ベトナム戦争反対運動などの影響を受けた。
マイク・ニコルズ監督の『バージニア・ウルフなんかこわくない』(1966年/アメリカ)で世界一の美女エリザベス・テイラーが、野暮な中年女性を演じた。アーサー・ペン監督の『俺たちに明日はない』(1967年)の鮮烈な「死のバレエ」といわれるラスト・シーンの衝撃はいまも新鮮だ。
ニコルズ監督の『卒業』(1967年)も、ヨーロッパ風の感覚を取り入れたハリウッド映画というべきか。「ハリウッド・ルネサンス」の象徴といわれた、サイモン&ガーファンクルの音楽を効果的に使用している。
スタンリー・キューブリック監督は、ブラックユーモア、ユニークな撮影手法、シャープな映像感覚、大規模な舞台装置、刺激的な音楽手法で知られ『2001年宇宙の旅』(1968年/英国+アメリカ)、『博士の異常な愛情』(1964年)、『時計じかけのオレンジ』(1971年)など。
警察などの権力に、あまり信頼を寄せない風潮のなかで、犯罪映画というべきものにもおもしろいものが出てきた。フランシス・フォード・コッポラ監督とニーノ・ロータの音楽で人気の『ゴッドファーザー』(1972年/アメリカ)は大ヒット(評価が高いPartIIは1974年)。
ウィリアム・フリードキン監督の『フレンチ・コネクション』(1971年)では、警察がなんとも冴えないイメージで描かれる。 『お熱いのがお好き』(1959年)はビリー・ワイルダー監督のコメディ映画だが、トニー・カーティス、ジャック・レモン、マリリン・モンロー主演。マリリン・モンローの代表作だ。
冷戦時代のことであるので、スパイ映画も多くつくられたが、その代表はテレンス・ヤング監督らの「007シリーズ」だ。『007ロシアより愛を込めて』(1963年/英国+アメリカ)を最高傑作という人が多い。
ジョン・スタージェス監督でスティーブ・マックイーン主演の『大脱走』(1963年/アメリカ)とか、ジョン・G・アヴィルドセン監督で主演・脚本がシルヴェスター・スタローンの『ロッキー』(1976年)で見せるアメリカの強靱さに世界は酔いしれた。
ウィリアム・シェイクスピア作品の映画化は枚挙にいとまないが、オペラ演出家として知られるフランコ・ゼッフィレッリ監督の『ロメオとジュリエット』(1968年/英国+イタリア)の衣装や装置の見事さは別格。
※本記事は、八幡和郎:著『365日でわかる世界史』(清談社Publico:刊)より一部を抜粋編集したものです。