絶対に外せない近現代思想の名著

キリスト教の束縛からの解放が進んだ19世紀には、自由に思考し人間や社会の本質に迫る哲学が生まれていった。そして20世紀には、国際主義、平和主義、人種差別反対、男女平等、環境保護といった価値観が力を持つようになった。

18世紀後半からドイツで哲学が盛んになり『純粋理性批判』でイマヌエル・カントは、合理主義と経験主義を超えた認識論を唱えた。『精神現象学』でゲオルク・ヴィルヘルム・フリードリヒ・ヘーゲルは、弁証法的な思考をすることで絶対知に至ることが可能とした。

フリードリヒ・ニーチェは『ツァラトゥストラかく語りき』で永劫回帰で進歩を否定し、繰り返されていくだけだとした。デンマークのセーレン・キュルケゴールは『死に至る病』で、普遍的な価値に染まらずに生きていく価値を強調した。

エドワード・ギボンの『ローマ帝国衰亡史』は、歴史から学ぶ説得性を高めた名著。オーギュスト・コントは『実証哲学講義』で社会学への道を開いた。アレクシ・ド・トクヴィルは『アメリカのデモクラシー』で、この国の政体がいかに機能しているかを社会学的な見地から明らかにした。チャールズ・ダーウィンの『進化論』は、キリスト教的な世界観を科学の立場から粉砕した。

20世紀になると、フランスのアランは『幸福論』で考え方次第で人間は幸福になれる、ドイツのマルティン・ハイデッガーは『存在と時間』で五感や意識で存在を意識できることこそが人間である、とした。ジャン=ポール・サルトルは「どのように生きるべきか? といえば自分のなかに閉じこもらず、主体的にかかわること」であって、社会参加や政治参加の必要性を強調した実存主義を唱えた。小説『嘔吐』もある。

一方、アメリカでは『論理学説研究』のジョン・デューイに代表されるプラグマティズムが力を持った。政治の分野では、ジョン・ロールズの『正義論』がリベラリズムを、保守主義ではエドマンド・バークの『フランス革命の省察』(1890年)がバイブル的存在。アルベルト・アインシュタインは『一般相対性理論』によってアイザック・ニュートン的な宇宙観から人々を解放した。

▲相対性理論 イメージ:PIXTA

ジークムント・フロイトは『精神分析入門』により、無意識に人間が考えたり行ったりすることに日を当てた。シモーヌ・ド・ボーヴォワールは『第二の性』で「女性」問題に脚光を当てた。マックス・ヴェーバーの『資本主義の精神』は、カルヴァン主義の資本主義発達における貢献を論じた。

いずれにせよ、20世紀はじめに頂点を迎えた正統的な西欧文明が、ファシズム、共産主義、イスラム、中国などに脅かされ、さらに先進国内でもマイノリティや環境派の力が増したり、伝統的な家族観が崩れたりする一方、グローバル化によるGAFA(Google・Amazon・Facebook・Apple)などの強大化が見られるなかで、思想も激しい現実の変化のなかで立ちすくんでいるように見える。

※本記事は、八幡和郎:著『365日でわかる世界史』(清談社Publico:刊)より一部を抜粋編集したものです。