新型コロナの感染拡大が止まらないアメリカ。トランプ大統領の評価が問われる2020年大統領選挙が間近に迫っている。そして勝利の可能性が高まっていると囁かれ始めているのが、民主党のバイデン前副大統領。国際政治学者である高橋和夫氏に、どのような人物なのかを聞いた。
※本記事は、高橋和夫:著『最終決戦 トランプvs民主党』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。
連邦上院議員を36年務めた経験豊富な政治家
民主党の候補者指名を確実にしたバイデン前副大統領とは、どのような人物か。
バイデンは、1942年にペンシルバニア州でアイルランド系移民の家庭に生まれた。宗派はカトリックである。父親の事業の失敗から、一時は経済的に厳しい環境も経験した。その後、父親の収入が安定するとカトリック系の私立高校に進み、デラウェア大学を卒業している。大学と高校では、フットボールの名選手として知られていたようだ。
さらにニューヨーク州にある、シラキュース大学のロースクール(法科大学院)に進んだ。若いころは吃音であったが、努力によって克服したとされている。また喘息を理由に徴兵を免除されており、ベトナム戦争で従軍の経験はない。ロースクール在学中に出会ったネイリア・ハンターと結婚、卒業後は弁護士として働き始めた。
そして1970年代に政界に転じた。最初は地方議員を務め、72年11月に民主党から出馬、若くしてデラウェア州選出の連邦上院議員に当選した。
以降7回の連続当選を果たし、1973年から2009年まで通算で36年間も上院議員を務めた。その間に司法委員会、そして外交委員会に所属した。
この長い経歴の中で記憶に残るのが、2002年のイラクに対する武力行使の決議案への対応である。バイデンは、ヒラリー・クリントン上院議員などと共に、賛成の投票をしている。この議会の支持を踏まえて、当時のブッシュ(息子)大統領がイラク戦争を開始した。
なお、バラク・オバマとバーニー・サンダースの両上院議員は、反対の投票をしている。
2008年の民主党の候補者指名争いでは、少しオーバーに言えば、この投票がオバマとヒラリーの勝敗を分けた。長年の外交経験を訴えたヒラリーに対して、判断力は自分にあるとオバマが主張する根拠となった。
今回の指名争いでも、サンダースはこの点を何度も指摘した。恐らく11月の本選挙でも、トランプはバイデンのイラク戦争支持の投票を厳しく批判してくるだろう。