稀代の名将がふとした瞬間に見せる“優しさ”

「選手たちとグラウンドで時間を共に過ごさなければ…」というコメントからも分かるように、世界のラグビー界で数々の栄光を勝ち取ってきた名将は、選手との信頼関係なしには何も始まらないことを知っている。

特に日本では、スパルタ指導者としてのイメージも強いジョーンズHC。だが、日本代表HC時代にも、選手と二人きりで食事に出かけ、個人的な話を語り合って強い人間関係を保っていた、というエピソードも数多く聞かれる。

グラウンドでは厳しく言うこともあるが、それはお前がチームにとって本当に大事な選手だからだ。何で最近、調子が悪いんだ? 私生活で、何かあったのか? お互いに好きな物でも食べながら、腹を割って何でも話してみようじゃないか。

普段は厳しい名将が、時に見せる優しさを前に、グラウンド内外の話を正直に語る選手たちの姿は、容易に想像がつく。かつて指導した選手たちの中には、今でも個人的な付き合いを続ける人も数多くいる。HCとして、選手に好かれる必要などない、という発言も残した厳しい指導者だが、それでも付いてくる弟子は世界中に数多くいる。

先述の通り、地元開催となった2015年大会ワールドカップでの惨敗で、悔しさに泣いたイングランド代表。選手たちは、4年後の日本大会でチームを決勝戦まで導いた指導者に、強い信頼と敬意を抱いている。2020年のシックスネーションズが始まり、代表合宿で選手たちとの信頼関係の強さを確認したジョーンズHCは、2023年までの契約延長に合意した。

こうして、フランス大会ワールドカップまでの契約を結んだジョーンズHCとRFUだが、当然、この関係が絶対的に2023年まで保証されているという訳ではない。チームが不調に陥れば、批判的なメディアは容赦なく解任論を展開し、場合によってはRFUのビジネスマンたちが、無慈悲な決断を下すことも考えられる。

さらに不気味な背景として、代表HCの解任などの人事に大きな影響力を持つ協会のCEOが、ジョーンズHCが就任して以来、既に4人目であるという事実がある。協会内の政治的な動きや、収益面でのパフォーマンスを理由に、2023年までの間にCEOがまた交代するという事態も考えられる。

しかしながら、こうしたグラウンド外での動きを「雑音」としてシャットアウトし、目の前の勝負に全力を傾けることをモットーとするジョーンズHC。外部からのどんなプレッシャーも跳ねのけ、勝利を目指して戦うのみであろう。

そしてイングランド代表は、この秋に2つの大きな勝負を戦うことになる。1つは、コロナ禍により中断となった、今年のシックスネーションズが再開される10月の戦いだ。中断前の時点で3勝1敗のイングランド代表は、10月31日に行われるイタリア戦の結果次第で、優勝の可能性を残している。

2つめの戦いは、従来のシックスネーションズ参加国に、ジョージア代表とフィジー代表を加えたオータム・ネーションズ・カップ。11月13日に開幕を迎える今秋限定の、この大会は12月6日のプレーオフ最終戦で幕を閉じる。

イギリス全土で外出規制が出されていた期間は、日本で過ごしラグビーというゲームについて、いつにも増して熟考を重ねたという、ジョーンズHC。この秋、二冠を目指す世紀の名将率いるイングランド代表に注目だ。