サングラスやマスクの使用はNG
暴露療法の話をすると、「人と話すことは日常的にやっていますが、全然慣れません」とおっしゃる患者さんがいます。実は社交不安症の自己暴露にはコツがあるのです。普通の方法では暴露療法になっておらず、いつまでたっても全然人に慣れないのです。なぜかというと、暴露療法中、無意識のうちに「安全行動」をしてしまっているからです。
安全行動とは、本人は安全第一で良いと思ってやっている行動のことです。他人からおかしな人間だと思われたくないという恐怖心から、作り笑いをしたり、下を向いて話したり、注目されないように振る舞うなどの不自然な安全行動をとってしまい、それにより、かえって人から注目され、それが不安を強くする、といった悪循環に陥るのです。
「知らない人に道を教えてもらう」という暴露療法を行うときに考えられる安全行動といえば……。相手の目を直視せずに、会話だけ手短かに済ませたり。思いっきり笑顔をつくって、声をかけたり。サングラスやマスクで顔の一部を覆って、相手に話しかけたり。
こんな安全行動をしていては「素の自分」とは程遠いため、残念ながら「暴露療法が正しく行えている」とは言えないのです。したがって、不安から解放されることなど期待できないでしょう。
暴露療法をきちんと行おうとするときは、安全行動なしで、素の表情で相手の目を見て、相手に向き合うこと。それがコツです。サングラスやマスクなどを着用するなんて言語道断です。
相手を観察するところまでいければ成功
またその際には「相手に観察されている」と感じるのでなく、自分で「相手を観察する」ことが重要です。通行人に道を聞く際には、不安が高まっても、その不安に立ち向かってゆく。通行人の顔を見て目を見て、相手がどんな人なのか観察します。
若い人なのか、中年の人なのか、男性なのか、女性なのか、眼鏡をかけているのかいないのか、髪の毛は長いのか短いのか、そういうことを観察しながら道を聞くようにする。
これが、正しい暴露療法です。認知療法では行動実験といいます。このような訓練を毎日続けることで次第に不安は低下し、慣れていきます。