2019年6月9日、香港で「逃亡犯条例」改正に反対する100万人規模のデモが起きましたが、およそ7人に1人がデモに参加したということになります。中国ウォッチャーの第一人者・福島香織氏は「このデモは、雨傘運動の挫折以降、膨らんでいた香港市民の中国への不信感を5年ぶりに吐き出すきっかけになった」としています。これだけの多くの人たちが反対する理由には何があるのでしょうか。

世界を驚かせた100万人の平和デモ

2019年6月9日、香港で「逃亡犯条例」(犯罪人引渡条例)改正に反対する大規模デモが起きます。これは世界中のメディアがトップで報じました。主催者発表103万人(警察発表24万人)というデモの規模は、1997年に香港が中国にハンドオーバーされて以来、最大規模です。

香港の人口を約748万人とすると、およそ7人に1人がデモに参加したということになります。これは香港基本法(香港ミニ憲法)23条に基づいて、国家安全条例〔治安維持条例:中国に対する国家分裂活動や政権転覆扇動なども取り締まることができる法律〕が議会に提出されようとした2003年に発生した51万人デモのおよそ2倍の規模でした。

このデモは、香港で捕まえた犯罪人を中国に引き渡すことができるようにする、現行の逃亡犯条例改正を阻止することが目的でした。

▲2019年6月8日のデモ 出典:ウィキメディア・コモンズ

香港では「反送中」〔中国に人を送ることに反対する〕行動と呼ばれていました。この条例改正案が成立すれば「デモ首謀者や民主活動家までが、国家分裂や政権転覆扇動容疑者として中国に引き渡されかねない。だから今年が、香港での大規模デモができる最後の年になるかもしれない」。

そういう強い懸念が、7人に1人の市民を9日のデモへと足を運ばせたのでした。私の香港人の若い友人たちも、悲愴な思いで、9日のデモに参加しており、そのときの写真や映像などをフェイスブックのメッセージで送ってきていました。

デモの呼び掛け人は、2003年7月1日の51万人デモを成功させて以来、毎年7月1日の平和デモを呼び掛けている香港民間人権陣線(民陣線)で、ここには香港のほとんどすべての民主派・人権組織のおよそ48組織が属しています。今の代表呼び掛け人は、岑子杰(ジミー・シャム)という雨傘運動でも中心的に参加した人物です。

▲岑子杰 出典:ウィキメディア・コモンズ

民陣線は、毎年数十万人単位規模のデモを組織する、平和デモ運営のプロとも言われる組織ですが、100万人超えのデモを、秩序を保ったまま成功させることができるのは、世界広しといえども香港人ぐらいかもしれません。

このときのデモを、上空からドローンで撮影された映像を見ると「雨傘運動」の象徴である黄色の傘をさして参加する人たちの姿がかなりありました。このデモは、雨傘運動の挫折以降、膨らんでいた香港市民の中国への不信感を5年ぶりに吐き出すきっかけになったのでした。