一国二制度を機能させないと、香港の繁栄もなくなる

周庭:10月1日の話だけでなく、警察側はデモ隊を殺すつもりで暴力を振るっていると思います。実弾だけではなく、催涙弾でも人を殺せるし、放水車でも人は殺せます。そういう武器を持っている法的権力がある警察が、こんなにコントロールできていないことが、香港人にとっては恐怖なのです。

もともと警察は、市民の安全と命を守る責任があるのですが、今の香港警察は、まったくそういう責任を負っていません。警察は市民の税金から給与をもらっているのに、市民を傷つける側になったのです。

福島:国慶節の日に、警察の実弾発砲のような大事件が起きることは予測していましたか?

周庭:警察の暴力がエスカレートするということは予測できました。ですが、今の香港では予測できないことが多いです。警察や政府だけでなく、親北京派のマフィアが結託して、無差別に市民を攻撃したり、黒い服を着ている人たちを攻撃することもよくあります。明日、どうなるのか分からない状況になってしまいました。

福島:10月1日のデモでは、周庭さんはどこにおられましたか? 危険な目にはあっていませんか?

周庭:私は沙田のデモに参加しました。今の香港は、デモに参加すればどこであっても危険です。この100日余り、私だけでなく、香港人はみんなずっと恐怖のなかにいました。

福島:こういう混乱の香港を放っておいて、10月1日に林鄭月娥行政長官ら香港政府の幹部たち240人が北京に行ったことはどう思いますか?

周庭:この時期に北京に行ったことは、彼女は香港のための行政長官ではなく、北京政府のための行政長官であることを改めて示したということです。これは香港に民主主義がないせいだと思いました。

▲林鄭月娥 出典:ウィキメディア・コモンズ

福島:林鄭月娥行政長官は五大訴求のうちの1つ、条例改正案を完全撤廃すると発表しました。これは部分的とはいえデモ隊側の勝利ではないでしょうか?

周庭:まったく勝利だとは思いません。もし、6月の100万人、200万人のデモが起きたとき、この撤回が発表されたのなら、香港は今、こういう状況になっていなかったでしょう。この100日あまり、自殺した仲間たち、怪我をした仲間たち、警察に逮捕され虐待された人たちがたくさん出て、いまさら何もなかったふりをして、条例改正案を撤回するといっても、遅すぎるし、まったく納得できません。林鄭月娥は五大訴求の他の4つの要求に応えねばなりません。特に警察の暴力に対して、外部調査を行うことが必要だと思います。

福島:警察監督会は役にたちませんか?

周庭:あの組織の役割は、確かに警察を監督・監察することなのですが、あの組織には法的な権力はまったくありません。権力がないので影響力もありません。私たちが望んでいるのは、法的権力を与えられた、本当に警察に対して監督・観察ができる外部組織の設立です。

福島:9月中旬、周庭さんはドイツ、黄之鋒さんは米国に行かれて、国際社会に香港への支援を訴えてこられましたね。米国は香港人権・民主法案を可決しようとしています。米国のこの法律が通り、国際社会が香港を支援すれば、あなた方の五大訴求が認められると思いますか?

▲黄之鋒(ジョシュア・ウォン) 出典:ウィキメディア・コモンズ

周庭:まずは、国際社会から香港政府にプレッシャーをかけることは非常に大事だと思っています。香港は国際金融都市なので、いろんな国の人・企業・資金が香港に集まっています。米国で審議されている香港人権・民主法案は、本当にこの法案が施行されたら、香港の人権を弾圧する人たちの米国入国禁止や資産凍結も行われます。これは確実なプレッシャーになると思います。

福島:中国がそれでも香港に対して、人権弾圧や一国二制度を破壊するような行動を取り続けると、香港に対する経済的優遇、例えば関税優遇やビザ優遇も取り消され、事実上、香港が経済制裁を受ける格好になります。そうなると、香港の繁栄が失われるのではないですか?

周庭:私にとって強い国、繁栄した国というのは、経済力があるだけでなく、人権や人の命に対する尊重ができる国です。中国は世界の経済大国と言われていますが、自治を求めるだけで、弾圧されます。不可解な死に方をした人たちもたくさんいます。こういう国のどこが経済大国なのか。

この運動が始まる前の香港は、たぶん外部から経済的には繁栄しているように見えていたかもしれません。ですが、実はこの20年間、香港人はさまざまな苦しみを経験してきました。政治的な問題だけではなく、社会や生活の問題もあります。

今の政府に対する運動は、これまでの怒りや不満が一斉に出てきた感があります。政治的な問題を根本的に解決することが、香港の本当の繁栄のために必要なことだと思います。

もともと香港は、中国に返還される前から国際金融都市でした。香港がなぜ経済的に繁栄したか、今まで国際金融都市であり続けたか、これは中国のおかげというより、一国二制度のおかげです。香港経済の繁栄は、公平な制度や、法律で守られたシステム、政治と経済の自由があるからこそ守られるのだと思いますね。

ですが、今、中国政府はこの一国二制度を破壊してきている。今、私たちが直面していることは、政治問題を解決することと、香港経済の繁栄を守ることの二者択一ではなく、この政治問題を解決し、一国二制度をちゃんと機能させないと、香港の繁栄もなくなる、という現実です。