日本の人たちに対して“悔しい気持ち”がある

福島:香港デモは今後どうなると思いますか。五大訴求をかなえることはできると思いますか?

周庭:それは林鄭月娥に聞いた方がいいんじゃないかな。

福島:では、要求が通るまで運動は続くと思いますか?

周庭:今、なぜ、みんなの怒りが続いているかというと、五大訴求の問題だけでなく、警察や政府からの弾圧がどんどん強くなっているということが大きい。武器の使用も増えました。怪我をする人も増えました。この弾圧が続く限り、運動も続くと思います。弾圧をまずやめないと、何も終わらない。

福島:あなたは雨傘運動以来、“雨傘運動の女神”“民主化運動の女神”と、シンボルになってしまいましたが、そのことについてはどう思っていますか?

周庭:今回の運動はリーダーのない運動、“水のように変化する運動”です。それに、私はもともとリーダーでもありません。普通の参加者の一人です。日本語ができるから、日本メディアに香港の状況を説明したりするだけです。女神という呼び方は、好きじゃないですね。

福島:社会運動活動に身を投じずに、普通の人生を歩む方がよかったかな、と思うことはありますか? こういう運動をしたために、8月30日には逮捕され、起訴されましたね。後悔はありませんか。

周庭:私は普通の人生を歩んでいると思っていますよ。普通って何だろう? 香港人としては、この時代に生きているからには、自分の街を守る責任がある。これが今の私たちの“普通”なんです。たくさんの香港人が街にデモに出てきています。みんな一般市民で普通です。一般市民だからこそ、権力がない普通の私たちだからこそ、何かする必要があると思います。

特に私たち若者は、これから何十年も、香港に住みたいんです。私たちのためだけでなく、私たちの次の世代の人たちのためにも戦わないといけない。

「一国二制度は2047年で終わる」という言い方がありますが、実はもう一国二制度は、ほぼ終わっているんですね。一国一・一制度くらいに壊されています。だから、私は2047年の未来のために、というわけではなく、“明日の香港”のために、戦っているんです。明日の香港がどうなるかも分からない状況ですから。

あと、私が逮捕されたのは6月21日の警察本部前のデモに参加したことで、デモを煽動したという容疑ですが、なぜ逮捕されたかというと、純粋な司法判断ではなく、8月31日に大きなデモをする予定がありましたから、知名度のある人たちを逮捕して恐怖を与えて、そのデモに参加させないようにしようという政治的な判断だと思います。私だけでなく黄之鋒も、3人の民主派の立法会議員もほぼ同時に逮捕されました。

福島:香港市民には、デモに反対している人たちも多くはないとしても、いますよね。デモは市民を分断していると言う人もいますが、それについてはどう思いますか?

周庭:もちろん、デモに反対する人たちはいます。でも分断というのは、この運動によって分断されたのではなく、もともと香港市民のなかに、さまざまな政治的なスタンスを持っている人がいるのです。どの社会でも異なる意見、異なる政治スタンスの人たちが共存しているのです。日本でも、そうでしょう?

私たちが戦っているのは民主主義のため、そして警察の権力乱用を止めるためです。民主主義とは異なる意見を持つ人の権利を守るための制度です。デモの参加者は自分のためだけでなく、異なる意見を持つ人を含めて香港人全体のために戦っていると思います。

福島:台湾の総統選が2020年1月に予定〔注:民主進歩党の蔡英文氏が再選〕されています。非常に香港の運動に世論が影響を受けているようです。香港と台湾の連携についてはどう思いますか?

周庭:香港の状況は台湾の選挙結果に大きな影響があると思います。台湾には親中派政党もありますし、中国政府は「台湾でこれから一国二制度をやろう」と言っていますね。香港を見れば、一国二制度の真実が分かると思います。

福島:習近平政権に対して、どういう意見を持っていますか?

▲習近平 出典:ウィキメディア・コモンズ

周庭:習近平が国家主席になってから、香港に対する政策が強硬になったことは、みんなが感じていることです。本当の政府とは、市民から選ばれる存在だと思います。ですが、香港も中国もそうではなく、独裁体制で市民の意見など聞かなくていい、反対意見を持っている市民は殺せばいい、という国です。

そういう国は普通ではありません。私たち香港人は、中国から様々な弾圧・暴力・恐怖を受けています。ですが、決して諦めず、この独裁国家に抵抗し続けたいと思います。

▲周庭(右)と福島香織氏 (福島氏所有写真)

福島:日本のメディア、日本に求めることはありますか?

周庭:軽々しく、香港のデモを暴力的だとか暴徒化だと言ってほしくありません。日本政府にも香港の状況に注目して、香港の人権問題や中国の人権問題に関して意見を表明してほしいと思います。

あと、選挙に行く権利を大事にしてください。たぶん、民主主義は日本人にとって当たり前のことなんでしょう。でも私たち香港人はそんな当たり前の権利すらなく、その当たり前の権利を獲得するために懸命に戦い、犠牲になっている人もいるのです。

民主主義があるのに、自分の持っている権利を大切にしない日本の人たちに対しては、実は悔しい気持ちがいっぱいあります。せっかく持っている選挙の権利、言論の自由、民主主義をなぜ大切にしないんですか、と複雑な気持ちになります。

※本記事は、福島香織:著『新型コロナ、香港、台湾、世界は習近平を許さない』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。