デモに参加した犠牲者はいったい何人?

疑わしい“自殺”の例として、香港で生前積極的に「反送中デモ」に参加していた15歳の少女、陳彦霖(ちんげんりん)さんが全裸の遺体で海から発見された事件があります。これは警察から「自殺」と断定されましたが、その後も多くの疑惑や謎が残っていることから、同級生らが真相究明を求め続けています。

時系列的にいえば9月19日、知専設計学院に通いm地区の水泳飛び込み選手としても活躍していた陳彦霖さんが、下校中に友人と別れて以降、行方がわからなくなっていました。

家族は21日に警察に捜査願いを出しました。9月22日に新界区の軍澳海浜公園のデビルズピーク沿海部で釣りをしていた男性が、浮遊していた女性の遺体を発見。警察は当初、22歳から25歳の女性の遺体を発見と発表していました。

一方、25日からデモ参加者が連絡を取り合うテレグラムや掲示板LIHKGなどに、陳彦霖さんの行方を捜すために、その写真や特徴などの情報が拡散されていました。香港・蘋果日報の記者が、この特徴と22日に発見された女性の遺体が一致するのではないかと警察に問い合わせたところ、警察は10月9日までに陳彦霖さんであることを認めました。

蘋果日報は10月11日にスクープとして、22日に海上で発見された身元不明遺体が陳彦霖であることを報じました。ところが警察は、外傷がないことから死因を自殺と断定し、家族は10日に葬式を行い、すでに遺体は火葬されてしまったのです。

彼女自身の性格の明るさや飛び込み選手としての強靭な精神力を備えていたこと、積極的にデモに参加し、生前に撮った自撮りビデオで「あなたに何かあっても、私がついている!」といった人を励ますようなポジティブなメッセージを撮影していたことなどから、自殺とは考えにくいと親しい友人たちは主張しました。

▲陳彦霖さんを追悼する人々 出典:ウィキメディア・コモンズ

彼女は、ボーイフレンドがデモ参加中に逮捕され拘留中、面会に行ったときに女性警務官を蹴ったことにより公務執行妨害で逮捕され、その後、児童院(少年院に相当)に入院していたことが確認されていました。

彼女の母校側(知専設計学院)は、14日に陳彦霖が自殺であることを示す根拠として、校内の監視カメラに写っていた映像の一部を公開しました。そこには校内を徘徊する奇妙な様子の陳霖彦が映っており、彼女が心の問題を抱えていたことの根拠とされました。

ですが、この映像は切り張りで不自然なところがあるとして、同級生たちは10月15日に学校で追悼集会を行い、学校側にすべてのビデオを公開するように迫りました。

▲追悼集会を行う知専設計学院の学生たち 出典:ウィキメディア・コモンズ

学校側は当初、その提出を渋っていましたが、要求に従い2本のビデオを公開。ですが、ネットユーザーたちは、このビデオに映っている陳彦霖が背の高さが違う、と指摘し、本人ではないのではないかと怪しみました。また同じ服装をした陳彦霖らしき人物を、地下鉄駅付近で見かけたという目撃情報も寄られました。

17日に親中派の香港無線テレビ・TVBが報じた、陳彦霖の母親のインタビュー報道もおかしなところがありました。母親は娘が心の病であったと証言し「娘は自殺であり、他殺ではない。みんな騒いで私や家族に“騒擾(嫌がらせ)”を与えないで」とコメントしています。

ですが、この女性は本当の母親ではない、という指摘があがりました。そして11月11日に、不思議な“飛び降り自殺体”が発見されました。建物から飛び降りた自殺なのに、周辺に流血がない中年女性の遺体でした。その遺体の写真がネットに流出しましたが、陳彦霖の母親にそっくりだと噂になりました。

その後、韓国メディアのKBSのスクープで、警察内部の匿名告発がありました。それによれば、陳彦霖事件は上層部から自殺以外の方針で捜査するなと、現場への指示が下っていたそうです。

こういう背景を考えると、実は香港デモの犠牲者は、私たちが考えるよりも多いのかもしれないのです。 

※本記事は、福島香織:著『新型コロナ、香港、台湾、世界は習近平を許さない』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。