読むのに1分もかからないシンプルな「一文」が、人生を変えてくれるかも。何かに悩んでいる時に、答えに導いてくれるのは「本」かもしれない。日本一書評を書いている印南敦史さんだからこそみつけられた、奇跡のような一文を紹介します。

人生を変える一文 -『 ほんとうに大切な自由というものは~』-

▲これは水です/デヴィット・フォスター・ウォレス(田畑書店)
「ハングリーであれ、愚直であれ」。名スピーチといえば、スティーブ・ジョブズがスタンフォード大学で卒業生に伝えたこの言葉が思い浮かぶ人も多いだろう。しかし、これとまったく同じ年にケニオン大学で、カルト的人気を誇ったある作家が伝説の名スピーチを遺していたことはあまり知られていない。本書はそのスピーチ「これは水です」の完訳版である。

日本一になれた、たったひとつの理由

手前味噌で恐縮ですが、去る6月、“日本で一番”を認定する【日本一ネット】というサイトに「書評執筆本数日本一」と認定されました。

「ライフハッカー [日本版]」で書評を書きはじめたのは2012年8月のこと。以来、土日祝日を除く毎日書き続け〔この8月は、サイト側の事情により初めて2週間ほどお休みしましたが〕、他にも複数の媒体で書くようになり、気がつけば8年も経っていたのです。

「日本一」という表現には、それなりのインパクトがあるからなのでしょう。認定されてからは「すごいですね」などと、言われることが何度かありました。

ただ個人的には、すごいとか、自分に特別な才能があるとは思っていないのです。ただ「やるべきこと」を愚直に続けてきただけだから。そういう意味では、地道に続けることの大切さを実感できたのが、この8年間であったとも言えます。

バックグラウンドにあったのは、かつて数年に及んだ「暗黒の時代」です。当時の僕は、おもに男性向けのクオリティマガジンで執筆していたのですが、ある時期から休刊が相次いでいったのです。

決定的な打撃になったのは、2008年のリーマン・ショック。以後は「これはギャグか?」と思いたくなるほど、極端なペースで仕事が減っていったのでした。

その数年前に家を建てて多額のローンを背負っていたこともあり、文字どおり“お先真っ暗”な状態。とにかく仕事がなく、やっと見つけたとしても詐欺まがいのものであったり「1文字1円」というような、はなから文章の質など必要とされていない仕事であったり。

そのため、自分が続けてきた仕事を、真正面から否定されたような気持ちになりました。悪夢にうなされて目が覚めるような朝を迎えることが、1年くらいは続いたと思います。

僕は根が能天気なので、自殺みたいなことを考えたことはなかったのですが、あのときばかりは「消えてしまったほうが、いろいろなことが丸く収まるのではないか」などという気持ちが、頭をよぎったりもしました。

でも、ありがたいことに数年すると仕事がまた増えてきて(それでも“数年”かかったんですけどね)、そんな流れの延長線上に書評の仕事がきて、それなりに受け入れてもらえるようになったのです。

その結果としての大きな変化は「感謝」を意識するようになったことでした。また、もともと自分のなかにあった「地味に地道に」という気持ちを、ことさら重要視するようにもなりました。先に触れたとおり“「やるべきこと」を愚直に続ける”ことの大切さを、改めて実感したのです。

そのため、僕はいまでも「感謝」の気持ちを、なにより大切にしたいと考えています。別に抹香くさいことを言いたいわけではなく、つらい時代を経てきたからこそ、それは本心なのです。

30代の頃には驕って失敗したこともありましたし、それに加えて数年前の経験を経た結果、そんな気持ちが根づいたのではないかと思います。