「あの人、どれくらい稼いでいるんだろう?」――誰しも他人の経済事情は気になるもの。とくにサラリーマンではない、文筆業や書評家の収支については謎が多い。Amazonランキングや出版界において多大な影響力をもつ書評家・印南敦史氏が、謎に包まれた「懐事情」を語る。
※本記事は、印南敦史:著『書評の仕事』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。
どうやって生活しているのか分からない
程度の差こそあれ、人は誰しも他人のプライベートが気になってしまうものではないでしょうか。それは僕も同じで、何人かの知り合いについて「あの人、どうやって生活してるんだろう?」と感じていたりもします。
世の中には“なにをして生きているのか、よくわからない人”がいるもので、そういう人の生活や懐事情は、やはり気になってしまいますからね。
でも考えてみると、書評家というよくわからないことをしている僕もまた、人から同じように思われているのかもしれません。なにしろサラリーマンではありませんし、書評家に限らず文筆業者の経済事情はなにかと謎に包まれているのですから。
そのため自分では気づかないうちに、そういう空気感を醸し出しているのかもしれないということです。そういえばかなり昔、給油をしようと思って立ち寄ったガソリンスタンドのお兄ちゃんからじーっと見られ、「なにしてる人なんですか?」と聞かれたことがあったなぁ。
おもしろそうなやつだったので、友だちになっておけばよかったと後悔しているのですが、それはともかく、文筆業者(の経済事情)はそれだけ謎めいているということなのかもしれません。
本の初版印税だけでは儲からない
こういう仕事をしていると、本を出すだけで「印税がガッポリ入るんでしょ?」なんていわれることがあります。
ですが、それは考えられないことです。いや、人気作家や芸能人であれば話は別でしょうが、一般的なフリーライターや零細作家に関しては、そんなことは“ありえない”のです。
多くの場合、印税は「定価×部数×0・1」で計算されます(0・1が、もっと低くなるケースもあります)。ということは、1300円の本が100万部売れれば1億3000万円です。それならたしかに「ガッポリ」です。
でも、考えてみてください。そもそも100万部も売れるはずがないのです。ビジネス書の場合、だいたい初版は5000〜6000部程度かそれ以下です。重版がかかればまた部数は増えていきますが、重版なんてそうそうかかるものではありません。初版だけで終わってしまうケースも非常に多いのです。
仮に1300円の本を5000部出すとしたら、初版印税は 65 万円です。書き上げるまでに1年かかったとしても、重版がかからなければそれっきりです。
それを高いと感じるか、安いと感じるかは個人の感覚によりますが、少なくとも「ガッポリ儲かる」ということにならないことだけは間違いありません。