ケータイ小説、漫画にマル「。」がない理由

LINEのチャットからマル「。」が消えつつある、という話を以前にしました。そうしたチャットアプリでの句読点の省略については、批判的な声が多く、とにかく句点があるのは当たり前だ、という意見が一般的なようです。

しかし、本当にずっとそうだったのか? 句点が使われないのはLINEだけなのか? 日本での「。」の使われ方が気になって、さらに調べをすすめました。その結果、LINE以外でも、句点が使われないケースが意外に多いことが分かりました。

例えば、2000年代に流行っていたケータイ小説〔携帯電話の画面で読む電子書籍化された小説で、ガラケー時代に流行した〕でも、句点を打たないのが普通でした。

▲ガラケー時代に流行っていたケータイ小説 イメージ:PIXTA

2007年の朝日新聞の記事には、ケータイ小説についてこんな言及があります。

「一般の小説好きからすればケータイ小説は、かなり読みにくい。情景描写が少なく、会話と心情描写が中心。文末は句点でなく「…」や「☆」「(ハート)」といった記号、はては顔文字までも使われる。頻繁な改行に加え、数行ごとにかなりの空白もとられている。」
出典:朝日新聞 2007年8月12日「(ケータイが変える変わる 選択のとき)メール感覚、小説『発信』」

さらに、次のような専門家のコメントにも「なるほど」と思わされました。

「1日に何十通とやりとりする女子中高生にとって、メールはおしゃべりよりも重要なコミュニケーション。『文章で気持ちを伝えるメールでは、語尾が句点で終わるのは相手に冷たい印象を与え、改行なしの文章は手抜きと思われる』」
出典:同上

少なくとも女子中高生の間では、文末の「。」が冷たいという意識が、2000年代に既に固まっていたのです。

お気付きでしょうか、LINEで「。」を使わないのと同じ発想ですね。ケータイ小説の第1次ブームは2002年~とされているので、今のチャットアプリより10年ほど早い〔※LINEとMessengerがリリースされたのは2011年〕ということですね。

さらに、漫画に目を向けてみると、ほとんどの場合は句点がついていないことが分かります。例えば、1950-60年代の『鉄腕アトム』を取っても、近年の漫画を取っても、一般的には句点が出てきません。

▲ビックリマークや、はてなマークはつくがマルは原則使わない 『渡り鳥とカタツムリ』(小社刊)より

小説の会話文も「」の中に句点がない場合が多いです。

句読点全体の定義を見てみると「文章における各部の切れ続きを示して、論理的関係を明らかにしたり、調子や口調を整えたりするために、文字とともに用いる符号」とされています。[出典:『国史大辞典』吉川弘文館]

実際に「?」や「!」は、それぞれ「疑問」「感動・驚き」といった感情を表すので、付加的情報として文章を正しく理解するために必要です。読点も、文の意味の切れ目を示すには重要な存在です。読点一つで、文の意味が変わる例も有名です。

  • 「警察官が、自転車に乗って逃げる泥棒を追いかける」
  • 「警察官が自転車に乗って、逃げる泥棒を追いかける」

自転車に乗っている人が、警察官か泥棒か、読点の位置によって変わります。

それに対して、句点は文の終わりを示しているだけで、特にセリフの場合は文の終わりがはっきりしているので、省かれても問題ないですね。

こうして見ると、漫画の吹き出しや小説の会話文など、セリフ形式の文章は、句点が付かない傾向が強いです。ただ、例外もあります。

絵本や教科書といった子どもを対象にした書物は、しっかり「。」を打つことが多いようです。漫画の中でも、小学館の漫画は、子どもが読む前提で作られているためか、必ず句点が入ります。