前回は♻や🙆など絵文字の意外な使われ方について紹介しましたが、絵文字の使われ方・解釈は文化差・個人差があって、国や使う文脈によって何通りにも解釈できてしまうところが面白いですね。

日本では梅雨の時期ということで、今回はしずくの付く絵文字とその使われ方についてお話します。

絵文字には何らかの形で、水滴が付くものが多いことに気づいたことがありませんか? ざっとあげてみても💦 😰 😅(汗)、😢😭(涙)、🤤(よだれ)、😪(鼻ちょうちん)、かなりバリエーションがあることに気づきます。

日本人は汗っかき? 💦絵文字の意味 

その中には汗の絵文字が多くあります。文末に(汗)を付けたり、💦の絵文字にしたり、(^^;) (-_-;)という顔文字を入れたりするなど、日本は本当に「アセ」表現が豊かです。自分が来日したばかりの頃は驚きました。

図1 欧米式のウィンクの顔文字、セミコロンが目を表現

他にも「しまった;」のように、汗をセミコロンで代用するものも。欧米式の顔文字ではセミコロンはウィンクを表すので、かなり抵抗がありました。しかし「汗」と「;」を並べてみると、セミコロンの形がさんずい「氵」に似ていて、汗や雫のイメージにピッタリだなと納得しました。

欧米人の感覚では、文末に(sweat)を付け加えるという発想はなかなか出てきません。日本の文化に馴染みのない人は「日本人はそんなに汗っかきなのか?」と思うかもしれません(笑)が、こうした表現は、汗そのものを指しているのではなく、焦り・不安・困惑・恥など、さまざまな感情・状態を表す記号なのですね。

欧米でも💦の絵文字を使う場合がありますが、以下のツイートのように、雨や海遊びなどの書き込みによく見かけます。

↑このツイートはTVチャンネルのアカウントによるものですが、個人が雨や海に関してツイートしている例も集めましたので興味がある方は参照してみてください↓

https://twitter.com/jclee19655/status/1272351040461918208
https://twitter.com/Rozkez67/status/1273910027716374530
https://twitter.com/greedy_gardens/status/1273553267046461440

そしてさらにツイッターで用例を探していると、💦の絵文字は性的な文脈でも使われているようです。Emojipediaにも「体液も含めて、さまざまな液体を表すのに使用されることもある」と解説があるほどです。[https://emojipedia.org/sweat-droplets/

ちなみに💦の絵文字と並んで、🍑(ピーチ)と🍆(ナス)の絵文字も同様に、性的な文脈で使われますが、それぞれ何をあらわしているか説明は要らないでしょう……。去年の9月から、FacebookとInstagramは「ピーチとナスの絵文字を使用したコンテンツを検閲する」というポリシーを発表しました。

当該絵文字が性的なコンテンツと共に投稿された場合、そのコンテンツ、またはアカウント全体が削除されてしまう可能性があるそうです。[https://www.facebook.com/communitystandards/sexual_solicitation

ところで日本で使われている「アセ」💦の絵文字は、もともと漫画由来ということは知っていますか? 💦や💧などは漫画から来ていて、漫画独特の符号的表現ということで「漫符」といいます。ですので日本の文化に馴染みがない、接点がない外国人には通用しない場合が多いのです。

例えば、漫符にこういうのもあります→ 💢。日本人ならば「怒り・怒っている」とすぐ分かりますが、日本・日本語にまったく接したことのない外国人に、この絵文字を見せても「なんだろう、さっぱり分からない」「使ったことない」という返事ばかりでした。ちなみに💢のマークは、何の形をかたどったのか分かりますか? 怒った時にこめかみに浮かぶ血管を戯画化したものだそうで「怒りマーク」または「青筋」とも呼ばれています。

しかし「青筋」ってよく考えたら矛盾していますよね。なぜ 💢  が「青筋」なのに、絵文字では赤く表現されるのでしょう(怒りを連想させるから? 血の色?)。

笹原宏之教授によれば「漫符」のような漫画的表現は、80年代の女子児童・生徒の手紙などで大流行した丸文字(まんが字とも)を経由して、絵文字に入ったそうです。丸文字は、主に手書きで使われた書体ですが、文字の角を丸くした丸っこくてかわいい形が特徴です。[『日本の漢字』岩波書店2006/pp.101-102]