こんにちは。獣医師の北澤功です。獣医をやっていて必ず立ち会うのが動物たちの「誕生」と「死」。今回は、生まれたての動物の赤ちゃんとのエピソードについて紹介します。

獣医に休みはない!? 深夜3時の哺乳タイム

カサカサ、コショコショ……。深夜3時。静まり返った室内に、なにかがこすれる音。隣で寝ている妻を起こさないように、足音を忍ばせ台所に行って、ティファールに水を入れ、スイッチオン! トイレに行っている間に沸いたお湯でミルクを作ります。

リビングに行き段ボールを開けると、生後1週間の猫・ルンちゃんが小さな声で「ミャーミャー」と僕を呼びました。片方の手のひらに乗るほどの小ささです。まだ自力でおしっこを出すことができないので、ティッシュで股間をトントンと刺激してやり、5分ほどトントンすると、排尿が完了します。

空腹のルンちゃんは、チュパチュパと僕の指を吸ったり、手足をバタバタさせて、ミルクが欲しくて待ちきれない様子。ミルクの温度を確認してから、口元に哺乳瓶の乳首を持っていくと、勢いよく吸い付きチュパチュパと飲み始め、どんどんお腹が膨れてきます。

お腹がパンパンになると、小さな前足で満足そうに顔を撫でます。しばらく僕の手の中でモゾモゾ動いていますが、だんだん動きがゆっくりとなり、指吸いをしながら寝てしまいました。

▲ミルクを飲んでいる姿が可愛いんです イメージ:PIXTA

ルンちゃんは産まれて間もなく、タオルにくるまれて病院にやってきました。公園の片隅で、ひとりぼっちで鳴いていたそうです。タオルから取り出すと消え入りそうな小さな声で“ミー”とひと声。まだへその緒がついた状態でした。

親ネコに捨てられたのか、飼い主に捨てられたのかは分かりませんが、放置すればカラスなどの餌食になりかねません。里親が見つかるまで私が面倒を見ることに。

ルンちゃんにミルクをあげ始めて3週間が経ちました。歯も生えそろってきて、少しずつペースト状のごはんも食べられるようになってきました。とても嬉しいことなのですが、これは僕とルンちゃんのお別れの時が近いということでもあります。

ミルクを飲まなくなると、いよいよ飼い主さん探しとなります。1か月が過ぎた頃、ルンちゃんを飼いたいという方が見つかりました。もうしっかりとごはんを食べます。ミルクはお皿で少しだけで、夜中の哺乳はなくなりました。

ルンちゃんが新しい飼い主さんの家に行く前日、僕はルンちゃんにミルクをあげようと無理やり哺乳瓶の乳首を口に押し込みました。しかしルンちゃんは、乳首を口からプイッと外し断固拒絶……。

それを見た看護師さんが「先生、そんなにしてまで、ルンちゃんを手放したくないんですね」とひとこと言ってきました。“ミルクが必要なら、まだ手離さなくて良いんじゃないか?”という僕の心が見透かされていたのです。そう“離乳”できていないのは僕でした。

そして当日、飼い主さんの真新しいキャリーバッグが、診察台の上にあったことは記憶にあるのですが、そこから自分が何を話したか、何をしたのか全く覚えていません。覚えているのは、ルンちゃんがキャリーバッグの隙間から手を伸ばし、寂しそうな声で「ミャー」と鳴いたことだけ……。

それから2週間、夜中にちょっとでも音がすると目が覚めます。目覚めてから毎回思うのです。「あ~ルンちゃんはもういないのか……」と。

▲天使のような寝顔が忘れられない時も… イメージ:PIXTA

それから1か月が過ぎようとした頃、ルンちゃんは健康チェックとワクチン接種のため病院にやってきました。コロコロと丸くなり、とても健康そう。しかし、僕の顔を見ながらキャリーの中で全く動きません。耳はふせた状態。

「あれ?久しぶりの再会で緊張しているのかな?」そう思いながら、さっと抱き上げ健康チェック。その間も身体は硬直。あれ~? おかしいな? 僕の腕の中で目を閉じてゴロゴロとすりよってきていたはずが……。

聴診を終え、いよいよ注射。背中を押さえて針をさすと僕に向かって“シャー”と声を発しました。完全に怒っています。ワクチンを終えるや否や、飼い主さんの腕の中に逃げるように飛び込みました。頭を撫でられるとゴロゴロゴロゴロと喜んでいます。

いいんです、これでいいんです。新しい家族の元でとても幸せそう。僕のことなんか忘れていいんです……。

獣医と動物のちょっぴり切ない別れのエピソードでした。