ダルビッシュ有:人一倍投げることへの情熱を持つ

ダル(ダルビッシュ有)のことは、高校時代から性格までよく知っている。私が阪神時代にカーブを教わった若生智男さんの実弟、正廣君が東北高の監督だったからだ。

08年北京五輪のとき、キューバ戦で先発KOされ、坊主刈りにした。その悔しさを09年WBCにぶつけ、胴上げ投手の栄誉に浴した。生粋の日本人より日本人らしい「大和魂」が宿っている。

そういえば09年の巨人との日本シリーズ、左臀部痛と右人差し指疲労骨折に苦しみながらマウンドに登り、100キロ台のスローカーブを有効に使って勝利投手になった。

41年、センバツ甲子園で滝川中時代の別所毅彦さんが左ヒジを骨折。三角巾で左腕を吊りながら投げたが、延長サヨナラ負け。「泣くな別所、センバツの花」と翌朝の新聞の見出しになった。

そんな逸話を彷彿とさせた。投げることが好きでなければ、そこまでして投げられない。「野球に対する情熱」は、投手にとって何物にも代え難い。

ダルは入団3年目の07年から5年連続して防御率1点台。日本では向かうところ敵なしで海を渡った。

メジャー・リーグ1年目の12年16勝。2年目13勝して「最多奪三振」のタイトルを手中に収めた。日本人では野茂英雄君に次ぐ2人目だ。

この内容がすごい。209回3分の2を投げて277奪三振をマーク。「9イニング平均の奪三振率」は11・89個。19年に千賀滉大君(ソフトバンク)が180回を投げて227奪三振、「奪三振率」11・33個が日本新記録になったが、メジャーでそれ以上の数字をすでに残していた。短いイニングを全力で投げた「抑え投手」だった佐々木主浩君(横浜→マリナーズ)の通算奪三振率11・56個も上回る。

▲ダルビッシュ有 出典:ウィキメディア・コモンズ(Photo:Keith Allison 2014)

196センチの長身、長い手足から繰り出す速いストレート、低目へのコントロール、多彩な変化球、特にスライダー系統は一級品だ。

利き腕とは逆の左腕でも60メートルを投げられる器用さ。その器用さと野球頭脳を生かして、打たれたときの修正能力も高い。

メジャー・リーガーたちも認めている実力が、メジャー8年で4度というオールスター・ゲーム出場回数に如実に現れている。