緊縮財政路線に転換した安倍政権

安倍政権は、2013年度だけは財政出動を積極的に行って拡張型財政にしましたが、翌年度からはいきなり緊縮財政路線に転換しました。

その後どれくらいの緊縮をやってきたかを知る一つの目安として、アベノミクスが本格的に始まった2013年度と2018年度の、政府の一般会計(決算ベース)を比較してみたのが次のグラフです。

2018年度を基準にして、それぞれの項目が2013年度に対して、何がどれだけ増減したかを比べています。

▲グラフ:2018年度 政府一般会計主要項目の2013年度比増減額(兆円)

税収そのものは、景気が良くなった影響もあって13兆円以上アップしています。また、そのうちの消費税収も増税によって7兆円ほど増えています。税というのは民間(国民経済)から政府が吸い上げたおカネです。しかし吸い上げるだけで、そのおカネを民間に返さなければ、経済は死んでしまいます。

国から税ばかり吸い上げられて、自分たちに何も返ってこなければ、どんな国であろうとも国民は疲弊し、活力を失ってしまいます。だから経済を成長させるためには、最低でも国民から吸い上げた税に相当する額を、国民に返さないといけません。

その国民に返す手段というのが財政政策です。財政政策を通じて教育・防衛費・基礎研究・公共投資などに政府がカネを使い、国民の生活がより豊かになるように還元していくのです。

現在の日本では、社会保障費が大きく膨らんでいます。これはまさに高齢化によるもので、社会の構造上、避けがたい現象です。

財務省が考えているシナリオは、税収が増えても国民には返さない。税収が増えた分の一部は、仕方がないから社会保障費に充当する。文教・科学や地方交付金、公共事業などの肝心な分野はカットしていく、というのが基本路線です。

たとえそれでも、税の増収分の全額を国民に還流させているのであれば、おそらく経済に与えるマイナスの影響はかなり軽減されるはずです。あくまで机上の計算ですが、税金を100吸い上げて国民に100返せば、経済の成長率そのものはニュートラル、すなわち上がりもしなければ下がりもしない状態になります。

しかし、財務省が実際に何をやってきたかというと、国民に返さなかった増収分のおカネを、新規発行国債の減額に回しているわけです。先のグラフを見ると、2018年度は2013年度に比べて9兆円も減額されています。これが「緊縮財政」と呼ばれるものです。

▲緊縮財政路線に転換した安倍政権 イメージ:PIXTA

よく誤解されるのですが、全体の予算が増えるのを拡張型財政と言うわけではありません。メディアのなかでも「予算規模が大きく膨らんでいる。だから拡張型財政だ」などというトンデモない認識が横行していますが、同じ記者として情けない限りです。

ようするに「緊縮」であるか否かは「財政規模の大小」ではなく「国民から吸い上げた税金を、どれだけ国民に返すか」で決まります。吸い上げた分の一部しか返さないというのは、まさに緊縮財政です。

国民の所得が増えないのも、国内投資が活発にならないのも、デフレ不況下で緊縮財政を実施していることが背景にあります。

2019年10月の台風19号の時のように、自然災害の被害が大きくなってしまうのもそうです。インフラの整備・修復に、しっかりと政府がおカネを使ってこなかったことへのツケが回ってきたと言っても過言ではありません。

また、防衛に関しても、近年の中国の動向を踏まえるなら、もっとおカネを使うべきでしょう。このように安全保障の問題も含め、いろいろなところで緊縮財政の弊害が起きてしまっているのです。

※本記事は、田村秀男:著『景気回復こそが国守り 脱中国、消費税減税で日本再興』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。