共産党幹部が不正で築いた富が香港経由で海外へ
香港と資本逃避の関係について、もう少し詳しく見ていきましょう。
これまで香港は、中国のドル(外貨)調達の拠点として、中国のめざましい経済成長を支えてきました。ところが、中国がいよいよ経済大国になると、今度は中国本土で富を築いた富裕層が自分たちの資産を、より安全な海外に移すという資本逃避の拠点にもなっていきます。
その富裕層の典型例が共産党の幹部とその一族です。彼らは香港にペーパーカンパニーをつくり、本土で不正に蓄財した資産をどんどん香港に移していきました。そして、カリブ海のケイマン諸島など「タックス・ヘイブン(租税回避地)」と呼ばれる税金の安い地域にもペーパーカンパニーをつくり、巨額のおカネを本土から香港、香港から海外へと移していったのです。
不正に貯めたおカネを国内に置いていては、いつ自分が党から処罰されて財産を没収されるかわかりません。こうして香港は、中国本土富裕層の資産の逃げ道になっていったわけです。
それでも、中国の経済成長が順調だった時期には、一度海外に流れたおカネも再び香港経由で本土に還流していました。不動産市場をはじめとして、中国本土に有望な投資先がたくさんあったからです。
しかし、中国本土への過剰投資や不動産市場の低迷により、中国経済の成長がかつてのような勢いを失うと、状況が一変。国内に流入するおカネの動きは鈍くなり、国外に流出するおカネの動きが激しくなっていきました。中国経済を発展に導いた香港が、今度は中国経済を崩壊に導く不安要素になっていったというわけです。
次のグラフは、2013年から2020年にいたるまでの中国の資本逃避の額を追ったものです。
2014年頃からの中国における資本逃避の勢いはすさまじく、その流れを加速させかねないのが、2018年に始まる米中貿易戦争です。資本逃避が増えていくと、外貨準備が減っていきます。そのため、習近平政権は資本の流出規制に躍起となっているのです。
続いて次のグラフは、前年比でどれだけ外貨準備と対外負債が増えたり減ったりしているか、ということを表しています。
2017年以降は外貨準備が回復しているように見えますが、一方で対外負債が増えています。資本逃避で減った分の外貨を、外国からの借金を重ねることでカバーし、何とか約3兆ドルの外貨準備をキープしているというわけです。
こうした状況を踏まえ、習近平は一刻も早く香港を中国共産党の監視・統制下に置き、ドルの国外流出(資本逃避)を防がなければ、中国経済の未来はないと判断したのでしょう。
しかし中国共産党が、一国二制度を無視して香港支配を強行することは、国際金融センターとしての香港の“死”を意味します。事実上のドル本位制の中国にとって、香港が国際金融センターとしての機能を失うことは、まさに死活問題です。
だからこそ毛沢東以来、歴代の共産党指導者は一国二制度に基づく「自由な香港」を容認してきました。たとえ香港を支配下に置いてドル流出の穴をふさぐことができたとしても、ドル流入の玄関口まで閉ざしてしまっては意味がありません。
香港の“死”は、中国経済にとっても崩壊の引き金になりかねないのです。
※本記事は、田村秀男:著『景気回復こそが国守り 脱中国、消費税減税で日本再興』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。