トランプ政権の対中強硬策で、以前のように対米貿易を通じてドルを手に入れられず、国内から海外への資本逃避が止められない。窮地に追い込まれた中国の習近平政権が、おカネの面で最終的に頼る国はどこでしょうか。経済一筋50年のベテラン記者・田村秀男氏によると、国際金融市場に世界でもっともおカネを流している国、おカネの供給源となっている国である日本だと言います。

実質経済成長率6%なのに不景気報道の謎

中国のドル本位制の経済・金融の危うさや、全体主義国家ゆえに中国が今後起こしうる政治問題・人権問題・疫病その他の“チャイナリスク”を踏まえると、これから日本の進むべき道が「脱中国」であることは明らかです。

需要・供給とも、日本はもうこれ以上、中国のマーケットに期待すべきではありません。現在日本が抱えている大きな問題のひとつは、中国経済に将来性があるという“幻想”を持つ親中派が、政界・財界(特に経団連)・学界・マスコミなどで、いまだに幅を利かせていることです。彼らの影響で日本が中国寄りの行動に出てしまうと、アメリカやイギリスなど反中国・脱中国に歩みだした国々からの信頼を失いかねません。

特にアメリカはトランプ政権が続くまでは、対中強硬策の手を緩めないはずです。トランプ大統領の中国に対する姿勢は「中国にドルと技術を渡さない」という方向で一貫しています。これから先、日本の企業も下手に中国とかかわってしまうと、アメリカのマーケットを失ってしまうリスクすらあります。

あるいは「そうは言っても、中国はコロナショック直前まで、6%台の高い実質経済成長率を維持していたぞ」という意見もあるかもしれません。確かに、中国政府の発表によると、中国の2019年の実質経済成長率は6.1%あります。

▲実質経済成長率6%なのに不景気報道の謎 イメージ:PIXTA

しかし、それほどの数字を出していながらも、日本のメディアでは「29年ぶりの低水準」や「成長に減速」などという不景気な言葉で報じられていました。普通に考えて6%台の実質経済成長率というのはすごい数字です。なぜそのようなネガティブな報道内容になるのでしょうか。

当時どの主要メディアも「実質経済成長率が6%もあるのに、なぜ景気が悪いのか」を一切説明していなかった記憶があります。その問いの答えは簡単です。6.1%という数字そのものが“ウソ”だからです。

中国の経済データは、政治的動機に左右されます。各地に配置される党幹部は、所管する地方の総生産を北京に報告するのですが、党中央が決めたその年の目標値をクリアしないと、幹部の失点になってしまいます。

そのため、地方の幹部たちは鉛筆をなめて、中央への報告数値を“水増し”します。国全体の経済成長率は、それらを合計して算出されるので、実態の数値に政治的な“水増し”が加算され、実態とはかけ離れた過大な数値になるというわけです。国家経済の基幹統計がインチキなら、まともな経済政策を打ち出せるわけがありません。

そのことは、おそらく習近平や党中央の幹部たちも自覚しているでしょう。李克強首相は、遼寧省のトップである党書記時代に、人為的操作で決まるGDPに代わって、鉄道貨物輸送量や融資、電力消費を信用すべきだと、アメリカの駐中国大使に打ち明けたと言います。

米欧のアナリストは、これらのデータをもとに「李克強指数」と呼ばれる指標を作成し、参考にしていました。しかし、最近ではそれすらも不規則で、景気の実態からの乖離が激しいと言われています。

自動車とセメントを見ればわかる中国経済成長の嘘

私が中国経済の実態を分析する際に着目しているのは、自動車の生産台数と、2013年から統計値が出るようになったセメント生産量です。自動車生産は、外資との合弁が多いため、なかなか“ごまかし”がききません。セメント生産は政治的裁量とは無関係なので、わざわざウソをつく必要はないはずです。

次のグラフは、自動車生産・セメント生産の前年比増減率の推移と、実質経済成長率の推移を組み合わせたものです。

▲グラフ:中国のセメントと自動車生産(各12カ月合計)の前年比増減率と実質成長率(%)

経済成長率のもととなるGDPは、民間投資・民間消費・政府支出・貿易収支の合計で決まります。中国の場合、GDPの40~50%を固定資産投資が占めます。固定資産投資というのは、簡単に言うと、土地の上に立つ建物などの「ウワモノ」への投資です。

ウワモノをつくるには、コンクリートが必要になります。コンクリートの原料はセメントです。と言うことは、セメント生産の動きを見れば、中国のGDPの約半分を占める固定資産投資の実態をおおよそ把握できることになります。

また自動車生産は、工業生産を代表する産業なので、セメント生産の動向と組み合わせることで、さらに中国の経済成長の実態が見えてくるというわけです。

▲ウワモノをつくるのに必要なコンクリート イメージ:PIXTA

さて、グラフを見ると、工業生産を代表する自動車生産も固定資産投資を反映するセメント生産も、2019年6月時点ではマイナスを記録しています。自動車生産は二ケタ台の減少です。そのような状況のなか、同年に6.1%という経済成長が果たして可能でしょうか。

ありえません。セメント生産と自動車生産の動向を踏まえれば、当時の中国経済は実質マイナス成長に陥っていた可能性すらある、というのが私の見立てです。中国が発表する経済成長率は「大本営発表」であり、決して鵜呑みにしてはいけません。

新型コロナウイルスの情報隠蔽の一件でも明らかですが、中国共産党政権が平気でウソをつくということを、我々日本人は改めて認識する必要があります。

▲外資との合弁が多い自動車生産 イメージ:PIXTA