私たちの預貯金が中国を助けている
中国は、リーマンショック後のアメリカの金融緩和政策と、対米貿易黒字によって大きな経済成長を成し遂げてきました。そして、その経済成長をもとに、一帯一路構想や南シナ海への海洋進出など、経済的にも軍事的にも外に広がる対外進出の野心を見せています。そんな中国の野心に冷や水を浴びせたのがアメリカのトランプ政権であり、米中貿易戦争でした。
トランプ政権の対中強硬策で、以前のように対米貿易を通じてドルを手に入れられない。その一方で、中国内から海外への資本逃避が止められない。外国から借金をしなければ人民元発行の裏付けとなる外貨準備もキープできない――それが中国の現状です。
では、窮地に追い込まれた中国の習近平政権が、おカネの面で最終的に頼る国はどこでしょうか。世界広しと言えど、日本しかありません。
今日のグローバル経済では、まさに「おカネは天下の回りもの」であり、国際金融市場を通じて地球規模でおカネが回っています。
たとえば日本から海外に出たおカネは、円がドルになってニューヨークやロンドン、フランクフルトなどの市場を需給の関係に応じて好き勝手に動き回ります。当然ながら、それらのおカネは中国にも流れていくことになります。
特にリーマンショック後の中国は成長著しかったので、“儲かる”中国のマーケットには国際金融市場を通じて大量のおカネが流れ込みました。実は国際金融市場に世界でもっともおカネを流している国、おカネの供給源となっている国が日本なのです。
経済の規模からして、アメリカのほうが多そうなイメージがあるかもしれませんが、アメリカは国外に出ていった分と国内に入ってきた分を差し引きすれば、ほとんどおカネを国外に出していません。一方、日本はおカネが国外に出ていくのみで、国内に入ってこないので、おカネの“輸出国”としてダントツの世界1位です。
その輸出したおカネがどこに行ったかというと、まさに中国に流れています。次のグラフは中国の対外債務と邦銀の対外債権(対外融資)の推移です。
邦銀は2008年からの12年間で、国際金融市場に約1.5兆ドルの資金を供給してきたのに対し、中国は海外からの借り入れを約1.6兆ドル増やしています。私たちの預貯金が、リーマンショック後の中国の膨張を手助けし、現在では中国の資本逃避の尻拭いをしているようなものです。
なぜそのような皮肉な状況になっているのでしょうか。一言で言うと、日本がデフレ不況だからです。日本の大手銀行は、国内に需要がない(おカネの借り手がいない)と見切りをつけて、国内で集めた我々の預貯金を、海外に投資・融資します。ニューヨークやロンドンなどの市場に流れた日本のおカネは、欧米の大手銀行に吸い上げられ、彼らはそれを元手に投資をして儲けます。
最終的におカネが流れつく先はどこかというと、彼らが“儲かる”と見なしたところです。リーマンショック後の世界では、それが中国でした。もちろん、なかには日本から中国に直接投資として流れていくおカネもあります。
国際金融市場で回っているおカネは、“儲かる”ところならどこにでも流れていきます。国境も、政治も、人種も、思想も関係ありません。たとえ中国が人権侵害をまったく意に介さない非道な全体主義国家でも、儲かりそうなうちはそこにどんどんおカネが流れていくのです。
米中貿易戦争が「和平」に向かう見通しは、今のところまったく立っていません。米中両国は2020年1月に第一段階合意を締結して「休戦」したものの、アメリカ側は中国側が米国産品を大量購入する約束をしっかりと守るかを、厳しく監視しています。
合意違反とみれば、ただちに制裁関税を対中輸入品すべてに拡大する構えです。しかもトランプ政権は、ファーウェイ(華為技術)など中国のハイテク企業をアメリカ市場から締め出すほか、中国への技術の輸出を禁じ、日欧などにも同調を強く求めています。
中国の窮状が見え隠れしていた天皇即位儀式
米中貿易戦争で中国へのドルの流入ルートが断たれた場合、中国経済は金融の面でも実体経済の面でも苦しくなっていきます。そうしておカネが必要になると、中国はまず間違いなく日本に接近してきます。すでにその兆しは2019年10月22日に行われた天皇陛下の即位儀式(即位礼正殿の儀)の際に見られました。
中国の代表として儀式に参列したのは、習近平の“右腕”である王岐山国家副主席でした。中国共産党内の序列は第8位であり、金融・経済のプロとして知られる人物です。当時一般的なメディアの報道では、王岐山の参列を2020年4月に予定されていた習近平国賓来日への地ならしだと解説していました。
しかし私は、中国側の最大の狙いは、米中対立が激しくなるなかで日本との関係を良くしておき、日本から中国へのおカネと技術の流入ルートを確保することにあったと考えています。
注目すべきポイントは、安倍総理(当時)が非公式ながらも台湾の代表・謝長廷氏を即位式に招待していたことです。いつもの習近平政権なら、それに激しく反発していたことでしょう。しかしこの時は、少なくとも表立った日本批判はありませんでした。中国側には、あえて事を荒立てるようなことはしたくないという政治的な判断があったからです。
おそらく今後も習近平政権は、追い詰められれば追い詰められるほど、日本にソフトな対応で接近してきます。本来なら4月の国賓来日を機に「日中友好新時代」のような見え透いたフレーズを掲げて、日本のおカネと技術を手に入れようともくろんでいたのでしょう。
一方で日本側は、大手メディアも、政治家や財界人の親中派も、その上っ面だけの日中友好を大いに歓迎していたはずです。以前では考えられなかった「習近平の国賓来日反対」の声が日本で上がるようになったのは、まさにコロナ禍における不幸中の幸いでしょう。
※本記事は、田村秀男:著『景気回復こそが国守り 脱中国、消費税減税で日本再興』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。