仕事における困難、将来に対する不安、漠然とした生きづらさ。そんな悩みを抱えている人は多いことでしょう。1000人を超える個人セッションから見出した、人間の内面世界を紐解く技術を体系化した由佐美加子氏と、慶應義塾大学大学院で無意識や幸福学の研究を重ねる前野隆司教授による、すべての人が持つ4つの「メンタルモデル」についての対話を通して、無意識のメカニズムから解放され、本物の自己肯定感を得るヒントを探ります。
※本記事は、前野隆司+由佐美加子:著『無意識がわかれば人生が変わる -「現実」は4つのメンタルモデルからつくり出される-』(ワニ・プラス:刊)より一部を抜粋編集したものです。
人間を動かしている無意識のシステム「生存適合OS」
前野隆司(以下、前野) さっそくですけど「メンタルモデル」は、もともと認知心理学の概念ですよね。由佐さんはそれを4つに類型化したわけですが、ここを研究している人は他にいたんですか?
由佐美加子(以下、由佐) おそらくいないと思います。認知心理学でいうメンタルモデルは、簡単にいえば「人間は思い込み(認知)から世界を見ているよね」という話です。
前野 そうでしたね。
由佐 普通は、その定義はかなり広い。でも、わたしは「人間の根幹にある無自覚な信念」という、かなり狭い意味でメンタルモデルという言葉をつかっています。人間には、行動を突き動かしている無意識の自動化されたシステムがあって、わたしはそれを「生存適合OS」と呼んでいます。
このOS(オペレーションシステム)の目的は、自分の痛みを避けて生きること。この目的に沿って、この社会を生き抜けるよう最適化されたシステムがあって、わたしたちの脳ではデフォルトでこのシステムが勝手にまわっています。このシステムに無自覚につかわれているうちは、無自覚に規定された行動しかとれなくなるんです。
前野 はい。
由佐 わたしがやっているのは、その自動化されたシステムから人間を解放する作業です。誰もが生存適合OSに支配された仮想世界のなかで生きている。そこから人間を外に出すためには「自分はそうしたシステムのなかで知らないうちに自動的に駆動している」ことを各人が自覚するしかありません。
前野 「脳の働きによってつくられた現実」と「本当の世界」が分離していることに気づいてもらうわけですね。
4種類のメンタルモデル
由佐 わたしが、ある外資系企業の日本支社に勤務していた当時、全国で300人くらいの社員がいました。人事担当として毎日、彼らからいろいろな相談を受けます。ただ聞いていてもつまらないので、概念として知っていたメンタルモデルに注目して、話を聞きながらホワイトボードに構造的に整理する、ということを始めました。
その作業を続けていたあるとき、人々の奥底にある痛みからつくり出された信念(=メンタルモデル)が、4種類に集約できることが見えてきたんです。それぞれのモデルの「痛み・繰り返される不本意な現実」は下記のようなものです。
何か価値を出さないと自分の価値は認めてもらえない。
●愛なしモデル=(こんなにやっても)「やっぱり自分は愛されない」
自分のありのままでは愛してもらえない。
●ひとりぼっちモデル=「しょせん自分はひとりぼっちだ」
人が去っていく、離れていく、つながりが絶たれる分離の痛み。
●欠陥欠損モデル=(こんなにやっても)「やっぱり自分はダメだ」
自分には決して埋まらない決定的な欠陥がある。
メンタルモデルから理想の組織構成がみえてくる
由佐 4つのメンタルモデルの特性を知ると、組織における適材適所がありそうだなと感じるんです。
前野 それは興味深いですね。どんなイメージですか?
由佐 ざっくりとしたイメージでいうと、ひとりぼっちモデルがビジョンを掲げて、太陽のような場所にいる。木の幹は愛なしモデルの人たちで、関係性をつくっています。その木が空に向かって伸びていく力は、価値なしモデルの人たちが強い。「こっちに行くぞ」と決まれば、そちらに向かっていくパワーになる。ただし彼らにベクトルは設定できないから、太陽(ひとりぼっち)が必要。そして、その土台となる土が欠陥欠損モデルの人たちです。
わたしは、これから価値なしモデルの人たちが淘汰されて、欠陥欠損モデルが台頭してくるんじゃないかと思っているんです。そういう兆候が出ていると感じています。
前野 一昔前の企業では、価値なしモデルが主流だったのではないでしょうか?
由佐 そうですね。価値なしは「他の人に対して価値を生み出さなければ、自分がここにいる意味はない」と思い込んでいるメンタルモデルです。これまでの企業は、期待に応えたら評価し、必要な存在だと認める。応えられない人は外す、という人のつかい方をしてきました。
要は「自分をなくしてでも評価されるように期待に応える」という仕組みで、価値なしモデルの人たちはこのシステムに率先して応えてしまいます。すると、自分でも「やりたいのか」「やりたくないのか」が麻痺してわからなくなっていくんです。
前野 あー、なるほど。高度成長期やバブル時代の企業だと、そのタイプはバッチリハマりますね。出世しやすいと思います。
由佐 ええ。企業において上に行きやすかった。でも、このピラミッドを登るためには、常に誰かからゴールを与えられなくてはいけません。だから40〜50代くらいになって先が見えた瞬間、どうしたらいいかわからなくなる。そういう価値なしモデルの人たちが、大勢苦しんでいます。