読むのに1分もかからないシンプルな「一文」が、人生を変えてくれるかも。何かに悩んでいる時に、答えに導いてくれるのは「本」かもしれない。日本一書評を書いている印南敦史さんだからこそみつけられた、奇跡のような一文を紹介します。
人生を変える一文 -『 OKUDAIRA BASE 自分を楽しむ衣食住』-
「新しい暮らし」をはじめた息子を想う
数ヶ月前、息子が独立しました。
大学を出たころから家を出たいと考えていたらしいのですが、まだ若いので収入も低く、なかなか独立資金がたまらないようでした。でも、口には出さなかったけれど、実家に住み続けることに抵抗を感じていることは明らかでした。
事実、ここ1年くらいは、自室中心の生活を続けることで家族との交流を減らし、少しずつ意識的に存在感を消そうとしているように見えました。
しかし早いもので、社会人になってもう4年目。会社ではグループ・リーダーのような立場にいるらしく(詳しいことは教えてくれないけど)、多少はお金もたまったみたいで、夏が終わるころに出て行ったのです。
彼の独立に際し、思っていたほど感慨にふけるようなことがなかったのは、僕が男親だからかもしれません。妻は、ちょっと違った気持ちだったみたいだし。
なにしろ「どんなところに住んでるのか、一度見に行かなくちゃ」などと言ってるのですから。「それはやめたほうがいい」と反対しているのですけれど。
でも、見に行きたくなる母親としての気持ちも、家にいることに息苦しさを感じていた息子の気持ちも、まんなかへんにいる僕には等しくわかるんですよね。
少し前、大阪に出張してきたので、おみやげに551蓬莱の豚まんを買ってきました。息子にも「取りに来い」と連絡し、帰宅したとき少しだけ話をしました。
「うわー、冷蔵庫に入るかな」
受け取った豚まんの箱を見て、息子がぼそっといいました。会社がリモートワークになったため、一日の大半を過ごす小さな新居で、仕事の合間などにいろいろな料理をつくっているようなのです。
「つくり置きしてるものが増えちゃって、冷蔵庫に入り切らなくなってきたんだよね」
つくる量を減らせばいいのではないかとも感じたのですけれど、つくる側にはつくる側の事情や考え方もあるのでしょう。もともと料理が好きみたいで、実家暮らしのころから自分で食べるものは器用につくっていたので、そういう作業がストレス解消になっているのかもしれません。
いずれにしても、新しい生活をするなかで予想外の不便さに気づいたりすることは、必ずしも無駄なこととは言い切れないように思います。
トライ&エラーという言葉があるように、やってみて、失敗し、考え、またやってみて……というプロセスを繰り返してこそ、より快適な暮らしに近づいていくのでしょうから。