現代人は「LPS」の摂取が減っている
グラム陰性細菌やLPSは、これまで食品素材としてほとんど意識されていませんでしたが、実は私たち生体恒常性の制御や免疫増強などに大きな利益を与えていました。
近年、特に先進国でアレルギー疾患が増えた要因として、衛生環境が整うことによって細菌の成分、とりわけLPSの自然摂取が減ったことが指摘されています。土壌に多いグラム陰性細菌は、乾燥して舞い上がるなどにより空気中にも存在します。
しかし、コンクリートやアスファルトが地面を覆い、土との触れ合いが減少している社会環境では、人々がLPSにさらされる機会が減少しています。それでなくとも現代においては、LPSの存在がどんどん脅かされる状況が続いているのです。
作物の栽培でも、現代では化学肥料を使うことが多くなっていますが、それによって細菌の種類が偏り、農薬を使った場合は細菌が死滅し、野菜についているLPSの量も減っています。自然の力に頼らない農業が、野菜本来の力も弱くして、ビタミンやミネラルが昔よりずいぶん少なくなっているとも言われます。
今後もLPS摂取の減少が続くならば、問題はアレルギー疾患、新たな感染症の蔓延だけにどまらず、原因不明の病気が新たに生まれてこないとも限りません。
現にいま、私たちは新型コロナウイルス感染症という、未知の恐怖に向かい合っています。その予防としては、何よりも体の免疫力強化をはかることが第一だと、多くの人が主張していますが、その免疫の中心を担っているのはマクロファージであり、それを力強くサポートしているのがLPS。つまり、LPSこそコロナ予防のカギなのです。
今こそ大事にしたい「日本の伝統食」
そもそもLPSは、数億年前に単細胞動物から腸管を分化させて発生した多細胞動物の時代から、細菌の情報分子として細胞動物が選択したと推定でき、少なくとも人類は、その誕生時点からすでに、LPSとともに存在していたと考えられます。
免疫を高めるという効能を持ち、生命維持に有用で必須であればこそ、人体は外来性のLPSをあえて取り入れたはずで、この関係性はできるだけ大事に保っていかなければならないことは言うまでもありません。
そのためのキーワードとしては、やはり「薬食同源」であり「日本の伝統食の知恵」、あるいは「温故知新」といったことではないかと思うのです。
たとえば日本人は、昔から海藻類のワカメやコンブなどを食してきていますが、これら海藻類にはLPSが多く含まれています。それはなぜかというと、海水は陸上の栽培よりも農薬などを使わない分、もとの自然に近い細菌との共生圏を持っていることと関連している可能性があるからです。
それに比べて地上の作物はどうでしょう。さきほど野菜類のLPS低下について触れましたが、農薬の大量散布などの問題以外にも、優性遺伝の種子だけを用いる耕作方法の広がりによって、土壌はどんどん痩せてきています。
さらには、おびただしい食品添加物の使用や、それに食生活の西洋化(高脂肪摂取)……などにより、マクロファージを中心とした生体防御システムの弱体化は否めません。
これらの改善には、まずはできるだけ意識してLPSを多く摂ることです。可能な限り無農薬の野菜、海藻類、玄米、納豆、味噌汁……。それらで作る日本の昔ながらの食事を心掛けることがポイントになります。
江戸時代の日本人はLPSの多い玄米食が基本でしたから、現代人の10倍ものLPSを食べていたと予想できます。言い換えれば、現代人のLPS摂取量は彼らの10分の1しかないわけです。
最近、日本の産業界においても、LPSの価値に注目しているところが増えています。
例えば「金芽米」もその一つです。これは、精米の際に、食感がモゴモゴする玄米の糠部分殻を削る一方、玄米が持つ栄養部分(亜糊粉層)を白米側に残す、という新技術で作られた画期的なお米で、従来の精製白米に比べて数倍多くのLPSが含まれています。
すなわち、現代の知見と視点で、古いものから大事なものを発見する「温故知新」の知恵が、ここにあります。
LPSのサプリメントも各種出ていますから、忙しい人はそれらを利用してもよいかもしれません。いずれにせよ、現代人にはLPS摂取による早急な免疫対策が求められているのです。