宇宙飛行士の間に国境が存在したことはない
愛する人たちが住んでいなかったなら、
宇宙もたいしたところじゃない
『BBCニュース』2018年3月14日より
ホーキング博士はこのことを、別な言い回しでも述べています。
「私が愛する人たち、私を愛してくれる人たちがいなかったら、宇宙はうつろな世界だったろう。その人たちがいなかったら、私にとって宇宙の不思議は失われていたにちがいない」
『ビッグ・クエスチョン(人類の問に答えよう)』より
人間にとって、家族や友人など愛する対象が存在するというのは、とても幸せなことだと思います。自分が愛する人々がいて、自分を愛してくれる人々がいてくれからこそ、人は人生の中にその意味と生きる意義を見出すのだと思います。
私たちはそんな人間同士の絆の中で生まれ、育ち、成長していきます。私たちの価値観や考え方を育むバックグラウンドは、特に国・人種・宗教・文化・習慣という枠組みであることもあります。しかし、それらの枠組みは同時に、古い時代からの連鎖として続いてきた対立や闘争の要因でもあり、その枠組みによって人類は分断されてきたという側面もあります。
ロシアの伝説的な宇宙飛行士にアレクセイ・レオーノフさん〔2019年10月11日没、享年85歳〕という方がいます。私も何度かお目に掛かってお話しさせていただいたことがあります。とても温厚でオープンマインドな方でした。彼は人類初の宇宙遊泳や、1975年のアメリカとの共同ミッション「アポロ・ソユーズテスト計画」では、ソ連(現ロシア)側の宇宙船ソユーズ19号の船長でもあった人です。
当時、激しい宇宙開発競争を繰り広げていた二つの超大国が手を取り合って実施されたこのミッションでは、アメリカとソ連の宇宙船を宇宙空間でドッキングさせるのが目的でした。彼は絵が得意だったので、宇宙船に紙と色鉛筆を持ち込んで、ミッション中に地球をスケッチしたり、ドッキング中にアメリカの宇宙飛行士の肖像を描いたりしたエピソードが残っています。
そんな彼が近年、緊張が高まる国際情勢の中で再び冷え込んでいるロシアと米国の関係について聞かれて「宇宙飛行士の間に国境が存在したことはない。こうした考え方が、政治家の心に浸透する日が来れば、地球は変わっていくはずだ」という言葉を残しています。
※本記事は、若田光一:著『宇宙飛行士、「ホーキング博士の宇宙」を旅する』(日本実業出版社:刊)より、一部を抜粋編集したものです。