徹底的な準備で勝負の9割を固める。それが勝負の前のプレッシャーに対処する術だ。その勝負が大きくなればなるほど、相手と外野の声は大きくなる。しかし、そういった外部環境に自分の心を惑わされてはいけない。自分の精神状態を一番コントロールできるのは、自分なのだから。日本やイングランドなどの代表チーム率いた経験がある、ラグビー界のカリスマ指導者、エディー・ジョーンズ氏が語るプレッシャーを力に変える方法。

※本記事はエディー・ジョーンズ:著『プレッシャーの力』(ワニブックス:刊)より一部抜粋編集したものです。

プレッシャーに勝つには準備が9割

みなさんも、ビジネスシーンやプライベートで「ここぞ」という勝負所を迎えることがあるだろう。緊張するのは当然だし、悪いことでもない。だが、緊張し過ぎて力が出せず失敗するか、それを力に変えて成功を掴むかは、自分次第である。

ビジネスを例にとれば、大事な商談や社内でのプレゼンテーション、採用面接など。プレッシャーに押しつぶされそうになりながらも、結果をもぎとらなくてはならない場面がある。どうやって臨んでいるだろうか。

勝負所で緊張するなとは言わない。私も今でも、テストマッチの前は毎試合緊張に襲われる。

こういったプレッシャーを軽減するために、重要なのは自分のできることに集中すること。自分がコントロールできるものと、コントロールできないものを区別することに尽きる。

相手がいる勝負の世界では当然、相手のパフォーマンスによって結果が左右される。試合前には対戦相手を分析し、相手の特徴を意識した戦術を用意する。

しかし、相手を過剰に意識するのは得策ではない。相手のパフォーマンスという自分たちでコントロールできないものを思案しても、際限のない不安が広がるだけ。対戦相手が試合に向けてどのような準備をしているかは、自分たちのコントロール外だと割り切る。

それよりも、コントロールできるもの、自分側に目を向けるべきだ。試合に向けて最善の準備を積み重ね、どのような状態で挑むかは、完全に自分たちのコントロール内にある。相手が誰であろうと、そのコントロールできる部分の精度をどれだけ上げられるか、そこに尽きる。

こうしたメンタリティで勝負に挑む前提が、努力と準備だ。100%の努力をして徹底的に準備を重ねる。この試合前までの準備で、勝敗の9割は決まってくる。

▲プレッシャーに勝つには準備が9割 イメージ:PIXTA

ビジネスシーンに当てはめれば、大事な商談を前に何も準備しない人はいないだろう。その準備をとにかく100%の努力ですすめることだ。話のもっていき方、相手を説得するための客観的な資料、予想される質問への対応など、考えられる不安要素を洗い出ししらみつぶしにする。そして、本番ではいい緊張感を持ちつつ、準備してきたものを相手に出し切る。

ただ、みなさんに言いたいのは、100%の姿勢で準備をしても、完璧を達成することなど不可能だということ。準備では対応できない1割の存在を受け止め、この不安定要素には、その場でいい対応をできる状態で勝負に挑むのが正解だ。

いい準備をした後は、いい精神状態で勝負に挑む。

そこであなたの仕事は終わりだ。最終的に相手や運命がどう転ぶかはコントロール外のこと。求めていた結果とは違っていても、100%の姿勢で準備したものであれば後悔する必要はない。なぜダメだったのか、という原因が分析できれば、次にいかすべき新しい発見があるかもしれない。

徹底的な準備で勝負の9割を固める。それが勝負の前のプレッシャーに対処する術だ。

重要局面で大役を任されたときのメンタリティ

いま、これを読んでいる現役ラグビー選手がいれば、聞いてみたい。シーンは試合終了直前、最後のワンプレー。

あなたは1点差で負けているチームのキッカーだ。そしてタッチライン際の難しい位置から、ペナルティーゴールを狙う、息を吞む場面。ここでキックを成功させればチームは逆転勝ち、トーナメントの次の試合に進める。失敗すれば、ここで敗退し、シーズンが終わる。こんな場面では、あなたの頭にどんな考えがよぎるだろうか。

▲重要局面で大役を任されたときのメンタリティ イメージ:PIXTA

大きく3パターンに分けられる。

まず「キックを外して負けたくない」と考えてしまうパターン。これは失敗への畏怖が、ネガティブなプレッシャーとなる典型的な例だ。

こうした失敗のシナリオを思い浮かべてしまうと、なかなかいいキックを蹴ることができない。体がこわばって、余計な力が入ってしまう。ボールはあさっての方向に飛んでしまうだろう。

次に「ここで逆転ゴールを決めたらチームは逆転勝利だ!」とチームメートが歓喜する瞬間を思い浮かべられるパターン。これは一番いい精神状態だ。このタイプの選手は、こんな状況でキッカーを任されて、よだれが出るほど興奮している。あなたは、練習通りに足を運ぶことができる。

最後に「とくに何も考えは浮かばない」というまれなタイプ。本当に何も考えずに、機械的に正確にボールを蹴るタイプの人間もなかにはいる。試合の状況や自分のキックの成否がチームに与える影響など考えず、正確な動作だけを意識してボールを蹴ることができる。