読むのに1分もかからないシンプルな「一文」が、人生を変えてくれるかも。何かに悩んでいるときに、答えに導いてくれるのは「本」かもしれない。日本一書評を書いている印南敦史さんだからこそみつけられた、奇跡のような一文を紹介します。
人生を変える一文 -『スマホ検索では“いい店を見抜く力”は身につかない』-
“伊藤先生”のことばと久住さんの発想の源
小学4年生のときの担任だった、伊藤先生のことばがずっと頭に残っています。
なーんて書くと、いかにも先生の言うことをよく聞く、お行儀のいい子どもだったみたいですが、そういうことではありません。単純に、シンプルなその発言に納得しただけのこと。
正直なところ、話の内容なんかちっとも覚えていません。ただ、その“締めの部分”に強く共感したのです。
「人と同じことをしたって、おもしろくないじゃない」
伊藤先生は静かに並ぶ子どもたちに向かって、ニコニコ微笑みながらそうおっしゃったのでした。
詰め込み教育全盛の時代です。今はどうなのか知りませんが、少なくとも高度成長期まっただなかだったあの時代は、学校教育においても「集団行動」や「周囲と同じ」が大前提。
だから、そこから外れてしまうと、必要以上に目立ってしまったりするのです(僕自身がそっちのタイプだったのでよくわかります)。
つまり当時の子どもたちは、ブロイラーのように大量生産されるシステムのなかに組み込まれていた、とすらいえるかもしれません。
そんな時代にあって、先生は飄々と「人と同じことをしたっておもしろくない」と言ってのけたわけです。そして僕は強く納得し、共感したのでした。そして、その考え方は、以後の僕の内部に根づくことになったのです。
特に意識するようになったのは物書きになってからですが、何かをしようとするとき「これは誰かの真似ではないか?」「誰も考えていないようなことか?」ということを念頭に置くように心がけてきたつもり。
偉そうに書いてるわりに「気がつかないうちに他人の影響を受けていた」と気づいて、赤面することも多く「まだまだだなぁ」と反省すること、しきりなのですけれどね。
その点、本当に「人のやらないこと」を次々と思いつき、それらを実践しているなあと、いつも感心してしまうのが、漫画家・漫画原作者・ミュージシャン・エッセイストなど、さまざまな顔をもつ久住昌之さんです。
考えてみると、もう20年近くのお付き合いになります。
有名な『孤独のグルメ』もさることながら、久住さんが思いつかれることは、ひとつひとつが「よくそんなことを思いつくなぁ」と唸ってしまいたくなるようなものばかり。
だからいつも敬服しているのですが、その発想のポイントのひとつは「狙っていない」ことだと思います。奇をてらうのではなく、ご自分の感覚で純粋におもしろいと思えることだけを(無意識のうちに)採用し、実行しているのではないかということ。
そして、もうひとつの重要点が「自分で動く」ということです。