読むのに1分もかからないシンプルな「一文」が、人生を変えてくれるかも。何かに悩んでいるときに、答えに導いてくれるのは「本」かもしれない。日本一書評を書いている印南敦史さんだからこそみつけられた、奇跡のような一文を紹介します。

人生を変える一文 -『スマホ検索では“いい店を見抜く力”は身につかない』

▲面食い/久住昌之:著 和泉晴紀:イラスト/光文社:刊
『孤独のグルメ』原作者による、リアル『孤独のグルメ』本。インターネットがなかった時代、知らないアーティストのレコードを買うときは、ジャケットの雰囲気やタイトルなどから推察し「勘」に頼るしかなかった。いわゆる「ジャケ買い」と呼ばれるものである。現在は、音楽情報はもちろん、美食情報もかんたんに手に入る時代となった。しかし、著者である久住氏は、初めての店選びを「勝負」と考え、依然として外観からの情報と己の「勘」だけを頼りに入店して食べている。こうした手法を久住氏は、レコードジャケットへの愛を込めて『面(ジャケ)食い』と名付けた――。本書は『面(ジャケ)食い』に魅せられた男の“勝負”の記録である。

“伊藤先生”のことばと久住さんの発想の源

小学4年生のときの担任だった、伊藤先生のことばがずっと頭に残っています。

なーんて書くと、いかにも先生の言うことをよく聞く、お行儀のいい子どもだったみたいですが、そういうことではありません。単純に、シンプルなその発言に納得しただけのこと。

正直なところ、話の内容なんかちっとも覚えていません。ただ、その“締めの部分”に強く共感したのです。

「人と同じことをしたって、おもしろくないじゃない」

伊藤先生は静かに並ぶ子どもたちに向かって、ニコニコ微笑みながらそうおっしゃったのでした。

詰め込み教育全盛の時代です。今はどうなのか知りませんが、少なくとも高度成長期まっただなかだったあの時代は、学校教育においても「集団行動」や「周囲と同じ」が大前提。

だから、そこから外れてしまうと、必要以上に目立ってしまったりするのです(僕自身がそっちのタイプだったのでよくわかります)。

つまり当時の子どもたちは、ブロイラーのように大量生産されるシステムのなかに組み込まれていた、とすらいえるかもしれません。

そんな時代にあって、先生は飄々と「人と同じことをしたっておもしろくない」と言ってのけたわけです。そして僕は強く納得し、共感したのでした。そして、その考え方は、以後の僕の内部に根づくことになったのです。

特に意識するようになったのは物書きになってからですが、何かをしようとするとき「これは誰かの真似ではないか?」「誰も考えていないようなことか?」ということを念頭に置くように心がけてきたつもり。

偉そうに書いてるわりに「気がつかないうちに他人の影響を受けていた」と気づいて、赤面することも多く「まだまだだなぁ」と反省すること、しきりなのですけれどね。

その点、本当に「人のやらないこと」を次々と思いつき、それらを実践しているなあと、いつも感心してしまうのが、漫画家・漫画原作者・ミュージシャン・エッセイストなど、さまざまな顔をもつ久住昌之さんです。

考えてみると、もう20年近くのお付き合いになります。

有名な『孤独のグルメ』もさることながら、久住さんが思いつかれることは、ひとつひとつが「よくそんなことを思いつくなぁ」と唸ってしまいたくなるようなものばかり。

だからいつも敬服しているのですが、その発想のポイントのひとつは「狙っていない」ことだと思います。奇をてらうのではなく、ご自分の感覚で純粋におもしろいと思えることだけを(無意識のうちに)採用し、実行しているのではないかということ。

そして、もうひとつの重要点が「自分で動く」ということです。