芸術や美術関連の「見た目の造形」ではなく、「新しい環境に適応するための、新しい価値とモノゴトの創造計画と可視化」という、本当の意味でのデザイン。

テックファーム株式会社にてデザイン事業と部門を立ち上げた、情報デザインのスペシャリストである天野晴久氏は、本来の意味の「デザイン」を、現代社会、特に日本ではできていないのが現状だと話します。

では、一体どうすれば本当に「デザイン」することができるのでしょうか。天野氏がそのヒントを明かします。

※本記事は、天野晴久:著『創造力とデザインの心得 5年後の“必要”をつくる、正しいビジネスの創造計画』(ワニ・プラス:刊)より一部抜粋編集したものです。

デザインに必要な思考とは

デザインをするためには、脳を創造的にし、発想力を高める必要があります。

わたしは脳科学者ではないので、脳の生理的な機能について深く正確に掘り下げることはできません。

しかし「創造的な思考」について具体的なイメージを描き、日々それを意識する習慣を持つことで、創造的な発想はしやすくなる、ということはお話しできます。

そのことについて、解説しましょう。

人は、目や耳などから情報刺激がインプットされると、それに対する反応をアウトプットします。その過程で脳がおこなう作業の1つが「思考」です。

大まかには、外界との接点は右脳で、内部的な理解をおこなうのは左脳だととらえればいいでしょう。

視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚といった五感で得られる膨大な刺激は、すべてデータとして右脳を通じてインプットされます。

それが何なのかを理解するために、左脳が持つ知識情報という記憶が用いられる、というものが「思考」のイメージとしましょう。

▲外界との接点は右脳、内部的な理解は左脳 イメージ:tadamichi / PIXTA

これを踏まえて、思考の種類を2つに分類してみます。

受動的な思考の場合、あまり深く考えずに答えを決めてしまいます。この思考でおもにつかわれるのは感覚を司る右脳です。

外部から入ってきた刺激(データ)は、記憶との比較や照合によって情報化し、単に事実としてそのまま受け入れます。

能動的な思考の場合、おもにつかうのは左脳です。

単に情報化するだけでなく、その情報を右脳と左脳の間で反復し、「解釈」を深めていきます。

その結果が、「ひらめき」として発信されます。

このとき、外界から絶え間なくインプットされる無限ともいえる膨大なデータ(刺激)を、1つ1つすべて意識することはほぼ不可能であることが、想像していただけるかと思います。

実際に人間の脳は、入力されるデータすべてを処理していません。

それが必要か不要かを無意識のうちに判別し、不要なデータは無視するというフィルターのような機能が備わっています。

一例を挙げると、生命に関わるデータは当然必要ですから、最優先で処理されます。この処理は、進化の過程で備わった生命維持“脳力”とでもいうもので、ほとんどの場合、何も意識なく、自然に機能するものです。

しかし、生活に関わる文化的なデータの処理は、生命維持のようにはいきません。

これは意図的に訓練をしなければ、能力として身につかないのです。