「古地図の数争い」より大事なのは「地図の読み方」

これに対して日本政府は、ひたすら「日本海は世界が認めた唯一の呼称である」と言い続けてきた。

そして論拠を示そうと、日本政府は2002年12月から世界の主要な図書館に赴いて、古地図の調査を始めている。外務省はその調査結果に依拠して「日本海は世界が認めた唯一の呼称」であることを理由に「東海呼称のほうが歴史的に古い」とする韓国側の主張を退けようとしてきたのである。

日本政府は「世界的認知」を論拠とし、朝鮮政府は「歴史的に古い」ことを主張している。互いの争点は最初からずれていた。

たしかに、外務省のホームページなどで公表されているように、世界の古地図では日本海と表記したものが多く、朝鮮海や韓国海とするものはあっても、東海は皆無に近かった。

だが韓国側は外務省の調査報告を認めず、日本政府に対抗して、韓国側も世界にある古地図調査をして「日本海よりも韓国海、朝鮮海と表記したものが多い」と報告したのだが、結局、水掛け論に終始した。

「どちらの表記の地図が多いか」を比べても、世界中にある全ての地図を数え上げることは不可能だ。自説に合わない地図は数えないのだから、正確な数字は出てこない。議論は平行線をたどらざるを得ず、決着がつくはずもなかった。

2002年8月、竹島問題と日本海呼称問題が日韓のマスコミで話題になった。韓国では鬱陵島と竹島を国立公園に指定すること、さらに、世界の地図から“日本海”が消えると伝えていた。

8月15日付の朝日新聞は「日本海の名称ピンチ」として、韓国側が東海の名称を主張するのは、日本海の名称が「日本の植民地政策により押し付けられた名称」との認識が背景にある、と報じていた。

▲嘉永年間に描かれた『地球万国方図』 出典:ウィキメディア・コモンズ(Geographicus Rare Antique Maps)

米バージニア州議会で決議された「日本海・東海併記」

日本政府は「日本海こそが唯一世界に認められた呼称である」との主張を続け、韓国側の歴史的論拠が破綻している事実をもって主張しようとはしなかったが、1992年の時点で、すでに韓国側が日本海を東海とする論拠は破綻していたのだ。

韓国が主張する“東海”の表記だが、これは日本海の「別呼称」でも「歴史的な呼称」でもなく、単に「中国から見て東の方向にある海」のことだからだ。

これは多くの文献に見られる。たとえば、19世紀末、朝鮮の高宗は自国について「我国は東海の東に在り」(『日省録』)と発言していた。これは中国の東海(黄海)を基準として、わが朝鮮はその東側にある、という意味だ。

しかし韓国側は、1992年以来「東海表記を広めよう」という運動方針に沿って、官民を挙げて取り組み、国連への働きかけ、各種ロビー活動、サイバー外交使節団(VANK)のメール攻勢を強め、フランスのル・モンド紙やアメリカのナショナル ジオグラフィックのように、韓国側のメール攻勢に負けて、日本海を東海に書き換え、併記するところが出てきた。

さらに在米韓国人たちの強い働きかけによって、2014年2月、米国のバージニア州議会の上下院で、州内の公立学校の地理の教科書に“日本海”と表記する際には、韓国の主張する“東海”の呼称を併記する法案が可決されてしまったのである。

日本政府はようやく私が指摘しつづけた、韓国側の「歴史的事実」の論理的破綻を根拠とした主張を行い、2020年末、国際水路機関は「日本海単独表記」を決定したが、シンクタンクがないことで日本海呼称問題のような単純な問題を30年近くも長引かせ、米国内の州議会で「東海併記」法案を成立させてしまったのである。

これで韓国側が「東海併記」を放棄することはない。むしろ逆で、韓国側は目標として掲げている「東海併記率40パーセント」の達成に向けて、すでに動き始めている。そのときに、日本は外務省だけで反論ができるのか、甚だ心もとない状況は続いているのだ。