長年不摂生な生活を続けてきたサラリーマンが、定年後、いきなり健康に気を使って歩く。よく見られる光景ですが、それではやらないよりマシ程度…。それよりは筋トレに挑戦してみては? と、京都大学名誉教授で、日本のスポーツ医学の権威である森谷敏夫氏は勧めます。

長年の運動不足、そして不摂生で衰えてきた身体を変えてくれる筋トレ。トレーニングは週3回程度が、身体にもメンタルにもちょうどいいもの。ですが、もっと手軽で毎日でもできることが実はあるのです。難しいことはありません、日常でする“動き”を少し意識して変えるだけ。とっても簡単なことなのですが、身体にも筋トレにも、とてもプラスになります!

※本記事は、森谷敏夫・吉田直人:著『定年筋トレ 筋肉を鍛えれば脳も血管もよみがえる』(ワニ・プラス:刊行)より一部抜粋編集したものです。

日常生活の中でちょこまか動きまわるNEATを増やせ!

定年まで動かない生活をしていた人が筋トレを始める。自重トレとジムでのウェイトトレーニングを週3回行うことをお勧めしますが、それを実践するだけで大前進。筋肉はつき体は絞られ、見違えるように心身ともに健康になっていくはずです。

ただ、それにプラスして行ってほしいことがあります。NEAT(ニート)を増やすことです。

ニートというと、働かないで家でグータラすること、と思われるかもしれませんが、ここでいうNEATはNon Exercise Activity Thermogenesisの頭文字をとったNEAT。「非運動性熱産生」と訳される運動生理学用語で「意識的に行う運動ではなく日常生活での身体活動によるエネルギー消費」という意味です。

日常生活では誰もが、このNEATを行っています。立つ、座る、歩く、何かを持ち上げる…、こうしたすべての行動でエネルギーを消費しているのです。

人間の体はエネルギーの約60%を基礎代謝で消費しています。残りの40%を①食べ物を消化吸収して栄養にすること ②意識的に行う運動 ③日常生活の行動 で消費していますが、なかでも昔と比べて圧倒的に少なくなったのが③の日常生活の行動によるエネルギー消費です。

買い物はネットを使って宅配、ビルや駅での上り下りはエレベーターやエスカレーター、テレビやエアコンもリモコンで操作できる。世の中が便利になるのはいいことですが、その半面、筋肉は細くなり脂肪を必要以上につけた動けない体に多くの人が悩むようになったわけです。

「でも、運動に比べたら日常生活のエネルギー消費なんて大した量じゃないだろ」と思うかもしれません。が、そんなことはないのです。

まさに「塵も積もれば山となる」で、起きている時間(約16時間)の生活活動を積分すれば非常に大きな運動量になります。

たとえば速足で30分ウォーキングをした時の消費カロリーは約100キロカロリー。一方、NEATによる1日の消費カロリーは動きの少ない人でも約300キロカロリー、比較的動く人なら約800キロカロリーになります。

立ったり座ったりしているだけでも、頑張って30分ウォーキングをする何倍ものカロリーを消費することになるのです。

▲普段の生活で消費されるエネルギーは大きい イメージ:januaryphoto / PIXTA