2020年前半から日本でも大きな波紋を呼んでいる、白人警察官による黒人への暴力の数々。ジョージ・フロイド氏の死を発端に、全米各地でいわゆる「BLM運動」が盛んに行われてきたが、在米作家である冷泉彰彦氏によると、こうした問題の背景にあるのは、アメリカの警察独特の「柔軟な人事」があるようだ。
※本記事は、冷泉彰彦:著『アメリカの警察』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。
40代でも転職のチャンスがある
一連の白人警官による黒人に対する暴力について、そこには「組織的な人種差別」があるのだから、警察の役割を縮小すべきだというのが、BLM運動の主張である。提案されている対策については、現実性はともかく、まったくの的外れではない。
だが、こうした主張に抜け落ちているのは、一連の事件の背景にある「警察の問題」である。アメリカの警察は、独立戦争から開拓の時代を経て、複雑な成長を遂げてきた。その歴史的経緯や組織のなかに、暴力事件を生むような問題点が潜んでいる、そのような見方も必要である。
一つは、警察組織の分断という問題だ。
アメリカの警察組織は複雑である。まず、自治体警察と州警察がある。そして、その他にもFBIやATF、DEA、さらにはシークレットサービスなど連邦の警察組織もある。それとは別に、自治体警察の中にはSWATチームという一種のエリート部隊が存在している。
各組織は悪く言えばバラバラであり、よく言えば独立してプライドをもって仕事をしている。また、アメリカ人の特質として「縦割り組織」になっていないので、プロジェクトごとに組織を超えてチームを組むということも比較的柔軟にやれている。
柔軟ということでは、人事も柔軟だ。大学進学ができなかった人材でも、高卒資格でポリス・アカデミーで学び「サーティフィケーション」を獲得すれば、フルタイムの警官への道が開ける。また、そこで実績を積んでいけば、上のポジションを目指すことも可能だ。
アメリカの場合は、大学の単位は一生有効なので、コツコツ夜学へ通って単位をためていけば、30代や40代になって大卒資格を得て、改めて管理職を目指すようなチャンスもある。
そのうえで成績が良ければ、そして高度な訓練のコースを完了したりすれば、たとえばチーフ(署長)になれたり、あるいはエリート集団であるSWATに入れたりする。そこから、たとえば連邦のエージェントに欠員が生じた場合に、中途で採用してもらえるなどチャンスは広がっていく。