「柔軟な」人事で優秀な警察官が偏る

だが、そうした柔軟性は反対に弱点も持っている。それは、成績の良くない警官の問題である。学位がなく、ポリス・アカデミーを始まりに現場でのパトロールなどを続けるなかで、勤務成績が良くない場合はずっと現場の仕事を続けなくてはならない。そんななかで、地方の小都市ではどうしても給与は頭打ちとなる。

アメリカには終身雇用制度は事実上ないが、その反面、労働市場は柔軟であり、基本的に資格があって職歴があれば、全米に広がった「ポジションの空き」を狙って転職ができる。

もちろん、転職する場合に勤務成績は重要だが、基本的に大都市へ行くと警察官組合が強いので、転職に不利になるような多少の不祥事履歴に関しては不問に付される。その結果として、慢性的に予算不足に陥っている大都市の警察は「優秀な警官を集めるのに十分な給与」は出せないが、それでも「勤務成績が低かったり、トラブル履歴のある地方の警官には魅力的」な給与水準を用意している。

黒人人口が圧倒的な貧困地区に、大勢の白人警官がいて、しかも黒人住民と良好な関係を築けていない、この問題の背景にあるのは、こうした労働市場の問題があると考えられる。

各都市の警察はそれなりの努力はしているであろう。だが、優秀な警官はより良い処遇を求めてSWATや州警察などに引き抜かれていくなかで、限られた予算で現場を担う警官の要員を充足するのは簡単ではない。

SWATに関しては、BLMのデモ隊からも「カネ食い虫」だと批判されているが、予算というよりも、ローカルベースの自治体警察のなかで、SWATというエリート集団に優秀な警官が奪われてしまい、現場のパトロール部隊の人材が疎かになっていることの方が問題だとも言える。

BLM運動は警察予算のカットを主張している。市民のトラブルに際しては警察官ではなくカウンセラーを派遣せよ、だから警察予算は削減で良いという意味で理屈としては通っている。だが、そうではなくて、単に警察の予算がカットされていくだけであれば、人種差別による暴力行為は増えるだけとなり、問題の解決にはならないであろう。

▲BLM運動は警察予算のカットを主張しているが… イメージ:PIXTA