連邦議事堂への暴徒侵入事件の衝撃

リベラルが勝利宣言を行い、トランプ政権の4年間はアメリカの分断を加速させたと断じる一方、熱心なトランプ支持者は、バイデンの当選は不正選挙によるものとして異議を唱え続けるという緊張状態のなかで、2021年1月6日、バイデン候補の勝利を正式に確認するため、上下両院で会議が開かれました。

これに対して、大規模な不正があったとして選挙結果に異議を唱え、トランプ大統領支持を訴えていた抗議集会の参加者の一部が議事堂内に侵入。審議が中断され、敷地内での銃撃で女性1人と警備員ら計5名が死亡する騒乱状態になりました。連邦議事堂の襲撃は、19世紀初めの米英戦争以来、200年ぶりの不祥事です。

▲連邦議会議事堂の建物外に集結した群衆 出典:ウィキメディア・コモンズ

合衆国憲法修正第1条から同第10条までは「権利の章典」と呼ばれ、アメリカ国民の基本的人権についての規定がまとめられています。

その第1条は「合衆国議会は、国教を樹立、または宗教上の行為を自由に行うことを禁止する法律、言論または報道の自由を制限する法律、ならびに、人民が平穏に集会しまた苦情の処理を求めて政府に対し請願する権利を侵害する法律を制定してはならない(Congress shall make no law respecting an establishment of religion, or prohibiting the free exercise thereof; or abridging the freedom of speech, or of the press; or the right of the people peaceably to assemble, and to petition the government for a redress of grievances.)」となっていますが、ここでいう「人民が平穏に集う権利(right of the people peaceably to assemble)」には、議会での審議も含まれています。

どんな国でも、憲法1条はその国にとって最も重要な国是や、その国の国家体制の根本について規定しています。我が国の日本国憲法では「天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であって、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基づく」となっており、象徴天皇制が国の根幹にあることを宣言しています。

したがって単純な比較はできないものの、アメリカ国民にとって議会での審議を暴力で妨害し警備員が殉職するということは、日本人にとっては皇居に暴徒が乱入し皇宮警察の警察官が殉職する、というのと同じくらいの衝撃的な事件だといってよいかもしれません。

法と秩序を守れなかったトランプの終焉

この点において、仮にトランプ本人が暴徒の侵入や、その前の抗議集会に無関係であったとしても(実際には、トランプは支持者に集会への参加を事前に呼びかけていましたが)、それこそアメリカの“法と秩序”に責任を負う立場にありながら、その責務を果たせなかったトランプは大統領の座を追われても仕方ありません。

実際、この件については民主党のみならず、共和党内からもトランプを非難する声がほとんどで、連邦下院では大統領弾劾決議が可決されています。ただし上院の弾劾裁判では、2月13日にトランプに対して無罪評決が下されました。

▲アメリカ合衆国議会議事堂前に集まるトランプ支持者たち 出典:ウィキメディア・コモンズ

こうして、晩節を汚すかたちでホワイトハウスを去ることになったトランプですが、その強烈な個性が、ポリコレの奔流に対する“壁”として一定の機能を果たしてきたものの、最後はその“壁の重さ”ゆえに自壊してしまったと評することも可能かもしれません。

いずれにしてもトランプ政権の4年間は、日本のメディアでしばしば言われているように「アメリカ社会の分断を加速させた」というよりも、むしろ「リベラル過激派の極端なポリコレの呪縛から、いささかなりともアメリカ社会の“自由”を回復させた」という側面があることは十分に留意すべきでしょう。

一方、トランプないしはトランプ的なものを排除し「分断の解消」を唱えるバイデン政権の存在は、客観的に見ると社会の“分断”なり“軋轢”なりを強める方向にしかベクトルが向いていない、ということを意識しておかないと、アメリカという国を根本から見誤ることになるのではないかと思います。