人の感覚は記憶とともに眠っている
木村 いよいよ、トライアウトの実戦場面を想定してのトレーニングに入っていきました。技術面は、新庄さんの言葉で「ゆっくり急ぐ」ペースでしたが、最後は「急いで急ぐよ」と言って、一気に仕上げていきました。もう感覚が戻っていたので、イメージのやりとりばかりでしたね。あとは体を痛めないように注意していました。新庄さんは、そのあたりの感覚はすごく鋭かったですね。今日はちょっと弱めにしておくわ、とか。
ランニングのトレーニング中に、右のふくらはぎを痛めてしまっていて、下半身にしっかり力を込めてスウィングできない時期があったのですが、11月23日の練習で、その不安がなくなって、フルスウィングに近い形でボールを打つことができるようになりました。
新保 新庄さんは、木村トレーナーとのセッションの様子をインスタグラムにたくさんあげていらして、見ていてワクワクしました。
木村 11月23日の祝日に、レッスンでストレッチをしているとき「今日、世の中お休みやな。野球少年とかが意外とオレのインスタ見てるから、今日はインスタライブやろう」って、ここで一緒に即席の野球教室をやりました(笑)。
新庄さんは、教えながら、自分の感覚に気付いていくんですよ。身につけてきたスキルは、体の記憶として、身体感覚とともに確実に残っているんですね。
そのときも、新庄さんが昔のある場面を思い出しながら、体を動かしていました。そこで「新庄さん、あのチャンスのとき、どうやって打ったんですか」って聞いてみました。すると新庄さんが「まず、チャンスのときはネクストバッターズサークルで目を閉じて、2本のバットを重ねて握って振っていた……」って、再現してくれる。ある日の練習の終わりのときには、ヒーローインタビューも再現してくれて「今日のヒーローは僕じゃありません。みんなです」そう言うと、帰って行きました(笑)。
体の記憶がよみがえっているんです。話してるうちに「オレ、こうやって打っていた」というのが体に戻ってきていて、それを僕に教えてくれる。そのインスタライブをやったとき、その感覚が出てきたのでちょっと強めに打ってみようかとなりました。
そうしたら、これまで以上にものすごい打球だったんです。「バコーン!!」って。初めて右足に本物の力が入ったスウィングで、思わず「すごい振れていたじゃないですか」って言いました。あの衝撃はまだ覚えています。
新保 体の中に記憶が眠っているなんて、面白いですね。それが最終日ですか?
木村 翌週の11月30日が最終日でした。「1打席目、初球だよな。スライダーかな。でも48(歳)やろ、まっすぐよねえ」と、1発で仕留めなければならないプレッシャーと戦っていました。体をなるべく使わないようにして、来るボールにバットの芯を合わせる。その練習を重ねていきました。
「でも、スカウトが見てるやろ。これでヒットやったら“さま”になるけど、軽く合わせてショートゴロだったら本当にかっこ悪い」とも言っていましたが、たしかに当てるだけ、合わせるだけの内野ゴロでは何もアピールできない。だったら1打席目は、合わせることを考えないで強く振っていったほうがいいかなと考えていました。
最終日は、最後の最後まで「トライアウトの打席で、ピッチャーが何を投げてくるのか」「そのボールに対して、強くいくべきか」「とにかく力まないように芯に合わせていくべきか」など迷いながら悩みながら、そのことを楽しんでいるかのようでした。あのときの、新庄さんの真剣な顔、迷いと不安に向き合う繊細な表情、どんなことにも真正面から向かっていく新庄さんのまっすぐな眼差しは、今も鮮明に心に残っています。
新保 新庄さんとのシビれる体験でしたね!
≫≫≫ 次回は、子どもたちへの指導などについてお聞きします。お楽しみに!
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アスリートのみならず子どもから年配者まで誰でも利用できる複合型スポーツ施設。プロアスリートのトレーニングメソッド、ケア・メンテナンスをあらゆるスポーツに応用。それぞれの夢や目標を実現するために、オリジナルプログラムを提案し、マンツーマンでサポートする。プラクティス(実践)、ストレングス(強化)、リカバリー(回復)の各サイクルに経験豊かなトレーナーを配し、ハイクオリティーなスポーツ指導を実現する。2021年4月より『MTX ACADEMY』に名称変更。
ホームページ:https://iwa-academy.com/
所属:B-creative agency (http://bca-inc.jp/)
出演:『大石久和のラジオ国土学入門』(ニッポン放送) https://www.1242.com/kokudogaku/