時間のロスなんて関係ない、とにかく前に進みたい
しかしそんな日本において、誰に何をいわれようが「やりたいこと」をやり続けてきた人物は誰か? そのことについて考えると、すぐに思い出すのが近田春夫さんです。
近田春夫&ハルヲフォンというバンドで頭角を現し、ソロ・アーティストとしても作品を残し、人種熱〜ビブラトーンズ名義での活動を経てヒップホップに傾倒。そこに端を発したビブラストーンというバンドで衝撃を与え、以後はトランスにハマってみたり、CM音楽の作曲家、あるいはプロデューサーとして数々の仕事をこなしたり、果ては『週刊文春』の連載「考えるヒット」でシャープな視点を披露したりと、その活動はあまりにも広範。
だから自伝『調子悪くてあたりまえ 近田春夫自伝』(リトルモア)のなかにある次のフレーズにも、とても納得できたのでした。
俺のすべての活動をフォローしてるファンって、ほとんどいないんじゃないかな。というか、フォローしきれないよ。だって、本人ですら、今まで何をやってきたんだかちゃんと把握してないもん。
(307ページより)
たしかにその通り。僕もひとりのリスナーとして、彼の音楽は(とくにビブラストーン時代は)追い続けてきたつもりなのですけれど、それは彼のほんの一部分でしかないということを、予想外のエピソードが次から次へと登場する本書を読みながら痛感したのでした。
「お前みたいなロックンロールピアノを弾けるやつはなかなかいないから、ニューヨークで一緒に活動しないか」と、かのニューヨーク・ドールズへの加入の誘いを受けたとか、話のスケールがあまりにもデカすぎるので、思わず笑ってしまったほど。
いずれにしても、近田さんを動かしてきたものは、その時々における「やりたい」という思いだったのではないかと推測するのです。
そして、もうひとつは「前に進みたい」という思い。こちらに関しては、なかなか維持するのが難しいことでもあるでしょう。時間の経過とともに「落ち着いて」しまい、エッジを失っていく人は少なくありませんからね。
もちろん、落ち着くことが悪いということではないのだけれど、進み続けることは年齢を重ねるごとに難しくなってくるものでもあるから。
そう考えるからこそ、今回は次のことばを「人生を変える一文。」としてご紹介したいのです。
俺、やっぱり戻るより進む方が好きなんだ。例えば、自分の目的地が渋谷と原宿の間の原宿寄りに位置するとしよう。品川駅から山手線の外回りに乗った場合、原宿駅で降りて手前に戻る形で歩いた方が時間的なロスが少ないとしても、俺はひとつ前の渋谷駅で降りて前に進みたいのよ。何なんだろうね、この性分。とにかく戻るのが嫌なんだ。
(308ページより)
これって、なかなか口に出せることではないと思うんです。でも近田さんが言うと、ものすごく説得力があるのも事実。その理由は、本書を読んでみるとすぐにわかるはずです。