アタリの警備員、ハズレの警備員
注文者と飲食店を除くと、ウーバーイーツの配達員と一番密接な関係にあるのが警備員さん。デパートやショッピングモール内にある店舗へ料理を受け取りに行く際に、従業員用の入り口で入館の手続きや店までの行き方を案内してくれたり、配達先のタワーマンションで配達員用通路の案内などをしてくれます。
警備員さんにもいろんなタイプがいらっしゃいますが、今回は私の印象に残っている警備員さんについて書いていこうと思います。
タワーマンションや高級レジデンス、有名なオフィスビルの上の部分に数フロアだけある、一生働いても住むことができないような価格の高級住宅には、警備員さんが常駐しています。
そういった物件で働くには、警備員さんにも品や人格が求められるのでしょうか。推定価格数億円は下らない港区赤坂にある某マンションで働く警備員さんはとても人間的。毎回、しがない配達員にしゃべりかけてくれます。
「寒いなか、ご苦労様だねぇ」
「あらあら、今日ここに来るのは三回目だねぇ」
「ウーバーイーツって、けっこう稼げるの? 私も警備の仕事クビになったらやってみようかな?」
「今日は、何を運んでるんだい?」
普通の高級住宅では、建物の裏側にある防災センターで警備員を呼び、身分証を提示したり、自分の電話番号を記入して入館手続きをとって、初めて中に入ることができます。ところがここでは、マンションの敷地に入ってすぐのところにあるボックスにいる警備員さんに挨拶するだけでOK。
そのあとは、住民と同じエントランスから入り、エレベーターに乗って目的の部屋に向かうシステムなのです。他の高級住宅と比べるとセキュリティーが甘いのでは? と感じてしまうほど。
ですが、半年ぶりにそのマンションに配達するため、会釈をしつつ警備員さんのいるボックスの前を通ろうとすると……。
「久しぶりだねぇ。最近はコロナで配達に来る人が増えて、ウーバーは景気が良さそうに見えるけど、お兄ちゃんも稼げているかい?」
なんて話しかけてくるではないですか。半年ぶり、しかもコロナでマスクをしている状態にもかかわらず、私が通った瞬間、こう声をかけてきた警備員さん。たしかに一時期、このマンションによく届けていた時期はありましたが、初老の警備員さんの記憶力に驚かされてしまいました。
こういうプロが入り口にいるから、警備ボックスを越えたあとのセキュリティーは、ゆるめなんでしょう。警備員さんの記憶力に驚かされるとともに、入館する人の身分をチェックすることだけがセキュリティーではないんだな、ということを考えさせられました。
ふとしたことがキッカケで仲良くなったのは、以前に「独自のルールがヒド過ぎる!! こんなマンションはイヤだ!」で書いた、湾岸エリアにあるマンションの警備員さんです。配達後に「あんなふざけたルール、誰が作ったんですか? 正直むかつきますよね」と話したら、無言で肯定も否定もせず、渋い笑みを浮かべてくれたことから、声を掛け合う仲になりました。
「『変な人が多いので、ウーバーの配達員は警備員室から配達先の部屋まで、警備員と一緒に来なければならない』なんてルールが提案されちゃったのよ。別にそれはいいけどさ、警備員の人数や警備費を増やさないのはちょっとね……」
と、その後は悩みを共有する仲に。深夜になったらスリッパなどの音が出やすいものを履いて廊下を歩いてはいけない、というルールが住民の総会で提案されているようなマンションなので、何が起きてもおかしくはありません。
このマンションの場合、上の階だと部屋にたどり着くまでおよそ5分。エレベーター待ちの時間が長いと10分ほど。1日に何度もウーバー配達員の付き添いをしていたら、他の仕事に手をつけられなくなるのに、人も予算も増やさないって。世の中には厚かましい提案をする人がいるんですね。