欧米のみならず、アジア圏内においても、新型コロナウイルスに対するワクチン接種が遅れている日本。果たして、その大きな原因はどこにあるのか? 元・官僚であり、医師の父を持つ、政治経済評論家の八幡和郎氏が緊急提言。「感染症と穏やかに共存できるようになるのは、ワクチンが多くの人に接種できるようになったときだ」
日本人はいつ接種できるようになるのか?
『日本人がコロナ戦争の勝者となる条件』という本を2020年に刊行したが、そこで心配していたことが、次々と現実になりつつある。
中国の武漢で流行が始まってから数ヶ月のあいだ、日本政府の対処は現実に日本がもっている能力を上手に使って、予防や蔓延防止措置を目配り良く講じて、経済にも大きな打撃を与えずにすみ、バランスがとれた優等生だったといってもよかった。
しかし、昨年の後半以来の対応は、時間があったのに後手にまわった。その結果、感染者や死者数は、欧米の10分の1にも満たないのに医療崩壊だとか騒ぎたて、過度の自粛で経済成長率は欧米並みというお粗末で、どうやって返すかも考えないで財政赤字は膨らむ一方だ。
さらに、大きな問題はワクチン接種の遅れだ。この問題はかなり深刻だ。NewsCrunchでは、このワクチン問題について詳しく書き、それも含めて本を書いたあとの状況を少しまとめて紹介したい。
もちろん、このシリーズの記事だけ読んでいただいても今の状況はわかるが、本も併せ読んでいただければ、いかに日本政府、というより日本社会全体の動きが緩慢であるか、劣化しているかがわかるだろう。
私は、このワクチン問題について、早くから警鐘をならしてきた。新型コロナに限らず、感染症と穏やかに共存できるようになるのは、ワクチンが多くの人に接種できるようになったときだ。
そのことで、流行が地域的に拡大することもなくなるし、罹っても症状は緩和される。ところが、今回のコロナのような新種の伝染病に効くワクチンを開発するには、1年半から2年がかりなのが普通なので、それまでどう乗り切るかが課題だった。
しかし、世界中の製薬メーカーや薬務当局が、非常に例外的な事態にふさわしい努力をして、昨年のうちに開発が成功して接種が始まったのである。
そこで私は、2020年12月25日に『アゴラ』というネット・メディアに「ワクチンを何ヶ月も遅らす日本の医療界の利権構造」という記事で、だいたい次のように書いた。
新型コロナへのワクチン接種は、アメリカやイギリスではトランプ元大統領やジョンソン首相の「英断」で早々に始まっているし、ロシアや中国ではもっと早かった。このへんは少々乱暴で政治的な賭けの要素もあったと思うが、普段はこうした問題に慎重なEUも、普通なら数週間かかるプロセスを即時で認可し、早速、3億回分のワクチンが各国に出荷され始め、年内に大々的に接種が始まる。
EUのフォンデルアライエン事務局長は、医師でもあるが立派な決断だと思う。日本と同じように薬務行政関係者は、各国ごとのルールまで持ち出して「そんなすぐと言われても」と言っていたが、ねじ伏せた。
日本は政府も医療界も何をしているのか。これこそ、政府にとっても医療界にとっても大失態ではないか。とくに医療界は、この段になっても既得権益を守ることしか考えてない。いい加減にしろといいたい。
日本では、いつ接種できるようになるのか。ファイザーは160人、アストラゼネカは250人の日本人を対象とした治験をしているそうだが、各社はその結果と海外での治験結果をあわせて承認を申請。医薬品の審査を担う「医薬品医療機器総合機構」(PMDA)と、厚生労働省の部会で有効性と安全性が認められれば承認されるのだそうだ。
日本と同水準の承認制度がある国で販売されるなどした医薬品について、審査を簡略化できる「特例承認」という制度はあって、レムデシビルは申請から3日で承認されている。
しかし、治療薬ほど緊急性はない、という声も関係者にはあって、2010年に新型インフルエンザのワクチンが特例承認されたときも、審査に2~3カ月もかかっている。
そこで、今月初めの段階では、厚労省では「今年度中にも接種できるようになれば」といっていたが、最近の報道では、ファイザーとビオンテックは12月18日に申請を出し(日本での面倒な手続きのために申請すら出せていなかったのだ)、2021年2月下旬を目途に医療従事者への接種を始められるよう、自治体に体制の整備を指示すると言っている。
高齢者は3月下旬を目途に、そのほかの人たちは4月以降に接種体制を確保するという見通しらしく、年内に回ってこない人も出てきそうだ。
それにしても、なんと悠長なことだろうか。ワクチンの確保すらできていなかった韓国よりは“まし”だったはずなのに。文在寅大統領も慌てふためいているようだから、もしかすると、日本にだけには負けないと頑張り、結果的に日本は韓国より遅いという大恥もありうる。
そして日本での認可は、2月14日にされ17日から接種が始まった。しかし、大きな遅れを取り戻して9日後の2月26日にから接種を始めた韓国では、3月11日までに早くも、累計500,635人(アストラゼネカ487,704人、ファイザー12,931人)に1次接種が行われ、日本の累計接種者148,950人を大きく上回った。
さらに3月末の段階では、接種数でほぼ同じなったが人口比でみると、日本は韓国の4割に過ぎないのである。
4月12日から高齢者への接種が始まるはずなのだが「当初の供給量は限定的で、地域によりばらつきがある」「非常にゆっくりとしたペースになるだろう」ということで、だいたい8月になるころには、なんとか希望者には1回目が受けられるような状態になるだろう、ということらしい。
そして、ここにきて浮上した問題は、日本が世界で類例をみない、470万人という異様な数の医療関係者を優先して、感染したら死に直結する恐れのある高齢者、とくに入院患者や施設入居者を後回しにするという、スキャンダラスなお手盛りをしていることだ。