欧米のみならず、アジア圏内においても、新型コロナウイルスに対するワクチン接種が遅れている日本。果たしてその大きな原因はどこにあるのか? 元・官僚であり、医師の父を持つ、政治経済評論家の八幡和郎氏が緊急提言。世界中でもっとも優先してワクチンを接種されているのは、病院や高齢者施設の入居者や、そこで働く職員なのである。
海外とは異なる日本でのワクチン優先順位
昨日の記事では、日本のワクチン接種体制の遅れと原因は、医療関係者が自分たちの既得権益や論理に固執して、緊急事態に相応しい協力をしてくれないことにあると指摘した。
しかし、もっと破廉恥なスキャンダルが起きている。そもそも世界中でもっとも優先してワクチンを接種されているのは、病院や高齢者施設の入居者や、そこで働く職員なのである。ところが、日本では医療関係者480万人のあとでしか受けられないのだ。
それを決めたのも医療関係者である。しかも、その範囲はどんどん拡大して膨れあがり、480万人は全勤労者の8パーセントにも及ぶ。
新型コロナでの死亡者の大きな割合は、病院や施設で感染した高齢者である。この医療関係者優先ということで、だいたい2ヶ月ほど病院・施設内高齢者の接種が遅れそうだ。
はっきり言っておこう。この2ヶ月の遅れで亡くなる人は、医療従事者優先でなかったら、ほとんどが命を落とす必要がなかった人たちだ。超高齢でない医者などが罹っても、めったに命を落とすことはないのだ。それでは、世界の接種順位を見てみよう。
イギリス・フランス・ドイツ・アメリカでの接種順位
【イギリス】
施設での死亡者が36%なので、入居者とそのスタッフが最優先。次に80歳以上の死亡者が66%を占めており、彼らが外出する機会は少なく、接触する可能性があるという観点で医療・介護関係者、という考え方である。ちなみに、イギリスでは医療関係者の死亡者は約1,000人で、日本とは違ってかなり深刻であるにも関わらず最優先ではない。
- 高齢者施設の入所者やスタッフ(100万人)
- 80歳以上の高齢者&医療従事者とケアマネージャー(550万人)
- 75歳以上(220万人)
- 70歳以上
- 65歳以上
- 16歳から64歳で基礎疾患がある人
- 60歳以上
- 55歳以上
- 50歳以上
【フランス】
一般の医療関係者は例外を除き、75歳以上の人よりも優先順位は低い。
- 老人ホーム居住者と従業員が最優先。長期入院施設で働く65歳以上の医療福祉関係者、医療運搬者のなかで併存疾患がある人。該当者は100万人ほど。
- 75歳以上。ついで65~74歳で併存疾患のある人。次に残りの65~74歳。医療福祉関係者・医療運搬者・長期入院施設で働く人。
- 50〜64歳の人と50歳未満でも併存疾患のある人。セキュリティー・食品・教育関係者など。
【ドイツ】
開業医など一般の医療関係者は、60歳以上の一般人や商店の店員、配達業者と同等の扱いに過ぎない。
- 高齢者施設や介護施設の入所者。80歳以上の人、及び高齢者と接する介護職員や高齢者施設職員。集中治療・緊急治療及び救急サービスに従事する人など、新型コロナウイルスにさらされるリスクが非常に高い医療スタッフ。また、重大な疾病又は死亡に至るリスクが高い疾病の患者、例えば移植医療の患者を看護する看護師。
- 70歳以上の全ての人。臓器移植を行った人や重篤な疾患のリスクが高い人。また、機動隊員のほか、要介護者・妊婦等と濃厚に接触する人。
- 60歳以上の人。慢性腎臓病・慢性肝疾患・自己免疫疾患・癌などの疾病リスクが高い人、家庭医や検査機関のスタッフ。警察・消防・教育・司法分野の職員。また、小売業の販売員に加え、季節労働者・配送センター及び食肉加工業の労働者などの困難な労働条件で働いている人。
【米国(カリフォルニア州)】
ヨーロッパに比べると一般高齢者の優先度は低いが、これも医療関係者なら誰でも優先という体系ではない。ただし「介護施設の居住者と医療従事者」というのは「介護施設の『居住者&医療従事者』」なのであるが、それを「『介護施設の居住者』&『医療従事者』」と誤読して、アメリカも医療従事者優先だと受け取っている人が多い。
- 介護施設(SNF)の居住者と医療従事者。その他の高齢者施設の居住者とスタッフ。ウイルスと接する可能性のある医療従事者(救急病院・急性精神病院・矯正施設病院・透析センター)を最優先とする。
- 医療・介護関係者のうち、患者と接触する可能性が高い人たち。
- コロナ検査関係者・歯科医・遺体安置所職員など。