韓国で新型コロナウイルスの新規感染者数が631人に至った2020年12月6日、政府の強力な感染拡散防止策として、社会的距離保持(Social Distancing)2.5段階が発効された。

社会的距離保持2.5段階とは、日本のソーシャルディスタンスの概念と似てはいるが、そのルールは微妙に異なる。5人以上の私的な集会の禁止、カフェで1時間以上の滞留禁止、夜9時以降の営業制限など、公私ともに一般市民の日常を大きく制限する措置となっている。

継続的な集団感染発生の恐れによって、学校や職場ともに登校や出勤を最小限に抑えることになり、生活や人間関係の範囲がマイホーム内に狭まってしまった。

▲韓国政府の距離保持段階別措置(2段階 vs. 2.5段階) 出典:韓国疾病管理本部

全世界でCOVID-19が拡散し、それにより外部での活動は減り、行動範囲は狭まって、仕事・学習・余暇を家で行う「ステイホーム」トレンドが、世界中で否応なく起きた。

そのなかで役割が拡張されたものがある。それは「母の役割」だ。韓国も例に漏れず、まったく同じである。韓国のママたちは家庭のなかで毎日、家族の健康診断や食事の準備、日用品の補給にとどまらず、子どもの学習管理や社会的交流も続けなければならない。

まさにスーパーウーマンとして生きながら、わずかに残ったプライベートな時間のなかで楽しさを見つけようしている「ニューノーマル」の時代。ママたちの生活の様子から、韓国の人々はこの逆境にどのように適応し、対応しているのかレポートしてみようと思う。

▲韓国ママたちの生活をレポート イメージ:PIXTA

モーニングルーティンになった自己診断アプリの実行

韓国のママたちは子どもの学期中、起床したら韓国教育部が提供する自己診断アプリを使用する。

発熱の有無、新型コロナの疑いがある症状の有無、在宅隔離者との接触有無などをチェックして、子どもが新型コロナの感染から安全であることを証明してから一日が始めるのだ。

小学生と中学生の娘がいる私は、2人のアカウントをそれぞれ登録して同じ動作を2回繰り返す。子どもたちが登校する日は少し急がねばならない。子どもが健康な状態であることを知らせなければ、登校ができないのだ。

もし、うっかり忘れた場合は、授業直前までアプリからのプッシュ通知が連続で鳴ったり、学校や担任から自己診断完了を促すメッセージが次々と飛んでくる。

オンライン授業の日でも自己診断は必須だ。中学生である長女のクラスは、オンライン授業の前に自己診断完了有無で出席チェックをする。子どもが朝寝坊でうっかり忘れることがあるので、私が代理で行うことも多い。

ステイホームで無限ループする食事の準備

朝早くに起床。朝食は家族と食卓を囲み、食事後は各自のスペースにすみやかに戻って授業あるいは仕事にとりかかる……。

と、書いてはみたものの、これはまったくの理想で現実とは違う。授業直前ぎりぎりで子どもを起こしたら、顔も洗えずにパジャマ姿のままでフードジップアップを着て、オンライン授業にアクセスする。

こんな状況だから、朝食は簡単にルームサービスの形で差し入れをする。

オンライン授業は一方向の動画教育もあるが、中学生はZoomなどのWeb会議システムを利用した双方向授業の割合が7割程度。双方向授業の際は、部屋の背景と音が入りこむため、邪魔にならないように食事トレーをこっそり置いて出る。

子どもは休みの時間に食べたり、一方向の動画教育の際に食べる。昼食もたいして変わらない。

学校のスケジュール表のランチ時間に合わせて、あらかじめ用意した食事を食卓で食べる日もあるが、普通は授業中に終えられなかった宿題があったり、次の授業の準備をしなければならない場合が多いため、ランチもルームサービスを頼まれる。

遅い朝食と決められているランチ時間との間隔が非常に短いため、韓国のママは朝ごはんを作って、すぐ昼ごはんを作る日常を「振り向くとごはん」というジョークで表現する。

高い教育熱で知られる韓国では、ほとんどの子どもが学校のほかに英語や数学などの学習塾を通っている。

しかし新型コロナの流行以来、塾もオンライン授業を取り入れ、放課後の塾の授業まで家で受けることになった。塾までの移動時間が節約できるのは良いのだが、お金を払う分の学習効果があるのか、いまいち不明だ。

こんな状況だから、塾の授業がある日は晩ごはん、おやつまで部屋に差し入れることが多かった。

IT業界で働く夫も、会社の在宅勤務方針によって部屋でリモートワーク。

リモートワークの問題は、仕事と休憩の切り分けがあいまいになること。頻繁なテレビ会議やビジネスチャットによってパソコンの前を離れることができないため、夫の食事までルームサービス。

知り合いの会社は、チームワークを高めるためにZoomを利用したオンライン飲み会をよく行うようで、そこで食べる“つまみ”は会社の経費になるらしく、経費に応じた金額のお酒やおつまみを披露するのだという。独身の従業員はコンビニで簡単に買ってきたり、出前で料理を用意したりするが、既婚の人は家庭料理を自慢したりするのだとか。

やれやれ、主婦にどれだけ負担のかかることか。

このように遠隔や在宅の日常化によって毎日、家族全員の一日三食分やおやつを用意しなければならない無限ループで、韓国ママはかつてないほど長くキッチンでの時間を過ごしている。

そのため、新型コロナによる不景気のなかでも、生活必需品でないキッチン小型家電の販売が急増したという。特に油を使わずに揚げ物が作れるエアフライヤーの売り上げは、前年より3倍以上も増えた。そのほかにもホームカフェやホームベーキングのブームで、家庭用のエスプレッソマシーンやベーキング用の機器などの販売も増加したという。

▲韓国家庭の必需品になったエアーフライヤー