『鬼滅の刃』で「呼吸」がこれほど注目されたのは、作品がエンターテインメントとして優れていたことに加え、もともと日本人が呼吸の大切さを知る文化をその下地として持っていたことも大きかったのでしょう。世界トップクラスのアスリートのトレーナーを務める森本貴義氏は、トレーニングの基本は「呼吸」であり、横隔膜をしっかりと動かす呼吸こそが「全集中の呼吸」だと言います。そこで横隔膜を意識するためのエクササイズを教えてもらいました。

※本記事は、森本貴義:著『入門!「全集中」の呼吸法 -自宅ですぐ始められる最強エクササイズ-』(ワニ・プラス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

まず「息を吐ききる」ことから始めよう

エクササイズを行う際に、意識すべきことは何点かありますが、できるだけ細く長く息を吐ききるようにしてください。一般的に男性は息がじゅうぶんに吐けていないケースが多く、女性の場合は逆にじゅうぶんに吸えていないケースが多くなっています。

どちらにしても横隔膜がじゅうぶんに動いていない状態には変わりがありませんが、男性は横隔膜がいつも緊張している状態の人が多いと感じます。社会的・精神的に緊張し、胸を張った姿勢をとろうとすることが多いのかもしれませんが、交感神経ばかりが優位になった状態が続いていると考えられます。

交感神経が強く働いていると横隔膜も緊張し、肋骨の下でピンと張った状態になっています。息を吐いても横隔膜がドーム状に上がらず下がったままになっていると、肋骨がきちんと内旋できず、肋骨の位置が正しくないと腹筋が正しく機能しなくなります。

その代わりに、横隔膜が姿勢を安定させようとして緊張を続けるようになってしまうのです。その結果、男性は腰椎が不安定になり、腰痛を発症しやすくなっています。しっかり吐けていれば、自然にじゅうぶんな空気を吸えますが、吐けていないために空気の取り込みが不十分となり、そこで浅く速い呼吸をして、それを補おうとします。

これに対して女性は「吸うのが苦手」な状態になっている人が多く見られます。これはストレスなどによる横隔膜の過緊張というよりも、主原因は横隔膜をはじめとする呼吸筋群の筋力低下です。

横隔膜の筋力が弱いために、代わりに肩や首の筋肉を使って呼吸を続けている状態になっている人がしばしば見られます。静かに座っている状態でも呼吸時に肩が上下する場合はほぼこの状態です。肩や首周りを常に緊張させていると横隔膜を使わなくても空気は体内に入ってきます。

しかし横隔膜を使えないために取り込みは不十分です。そこで肩や首の周りの筋肉をさらに緊張させて動かし、たくさん取り込もうとして浅く速い呼吸を繰り返し呼吸量を増やしますが、それが肩こり、首痛などを招く悪循環を生むのです。

▲まず「息を吐ききる」ことから始めよう イメージ:PIXTA

男性は吐けない、女性は吸えない、というのが呼吸過多のふたつのパターンです。これを解消するためには、まずはどちらのケースも「しっかりと吐くこと」を意識することが大事です。

「吸うのが苦手」な場合も「吸うこと」よりも「静かにしっかり長く吐ききる」ことを明確に意識して、エクササイズを続けると、少しずつ横隔膜が鍛えられてしっかりと動くようになります。

「吐くことが苦手」も、同じようにいつもよりも長く静かに吐くことを繰り返すことで、緊張で固まったままの横隔膜がストレッチされて、きちんと上下するようになります。

口呼吸をやめて鼻呼吸に慣れよう

▲口呼吸をやめて鼻呼吸に慣れよう イメージ:PIXTA

呼吸量を減らすために、もうひとつ非常に簡単で重要なことが「口呼吸をやめて鼻呼吸にする」ということ。

鼻は細かいゴミや花粉、細菌やウイルスをフィルターとしてからめとり、体内に侵入することを防ぎますが、それだけではなく、呼吸量を適切にしてくれる役割も担っています。口よりも開口部が小さく、狭く、鼻毛や粘膜などの「障害物」が多いため、それが抵抗になって1回の呼吸で肺に入ってくる空気の量は少なくなります。

口呼吸が習慣になっている人は、鼻がつまっているわけではないのに、意識的に鼻呼吸をしただけで息苦しさを感じるかもしれません。しかし、この鼻呼吸は、呼吸のトレーニングをするときはもちろん、日常生活でも常に気をつけて習慣にしてください。

特別なトレーニングをしなくても、意識して日常の呼吸を鼻呼吸にするだけで、体調は改善し、睡眠の質がよくなり、さらに免疫力も上がります。また鼻腔からは一酸化窒素が分泌されており、これは血管を拡張する作用があるため、通過する酸素の取り込み率を上げてくれるのです。

「つい口が開いてしまう」という人は、今ならマスクの下で、唇に粘着力の低いマスキングテープなどを縦に貼り付けておいてもいいと思います。昼間はちょっと……という人は、まず睡眠時に試してみてください。