風俗店に牛丼をお届け

渡辺 商品を運んだのに10分間、受取り人が見つからないとキャンセルになるんですが、それも数少ない楽しみの一つですね。「廃棄」という扱いになるので、どう処分してもいいので。

太田 僕はいつも運んでいるラーメン屋さんの「サンラータン」を食べたことがなくて、どんな料理なんだろうって気になっていたんですね。だからキャンセルが出たときは嬉しかったな。仕事が終わるまで大事に持ち歩いて、家で食べたけど、おいしかったです。

▲おいしい体験を思いだすと笑顔になる太田氏

渡辺 僕は松坂牛のハンバーガーですね。でも、その配達直前にマックを食べちゃったから、同じように家に持ち帰ったんですよ。けど、肉汁がたっぷりすぎてバンズがぐっちゃぐちゃ。1個3500円のバーガーはうまかったけど、できればアツアツを食べたかった。

太田 変わった配達先とかありました? 僕は公園の入り口で待ち合わせをしたことがあります。

渡辺 僕は風俗店のプレイルームですね。受付を通って部屋に入って、女性に膝枕をされている男性に牛丼を手渡したことがあります。

太田 それは最強のカードじゃないですか。いちいち経験が強いなぁ。どんな人だったんですか。

渡辺 いや、そんなに顔まではあまり覚えてないんです。お客さんの顔はあんまり見ないようにしている。

太田 たしかにノーメイクの女性が多いので、失礼にならないようにした方がいいですもんね。あまり目を合わせない配達員がいたとしたら、気を遣っているんだと思って、その気遣いに対するチップをいただけると嬉しいです(笑)。

渡辺 自分は、本を出せたので配達員はちょっと一休みですけど、これからどうしようかなと。

▲急に冷静になる46歳の渡辺氏

太田 たしかにライバルも増えたし、稼ぎも少なくなりましたよね。

渡辺 緊急事態宣言で酒の提供が禁止になったりしたことで、注文が増える可能性はありますね。コンビニで酒とつまみという注文を受けることも多くなりました。

太田 空いた時間にできるのはたしかに魅力で、劇場の出番の合間に仕事をすることもあるけど、芸人としての本音を言うと早く辞めたいですね。

渡辺 みんなそうなんじゃないですか。一生続く仕事とは思えないし。自分は人生を逆算して、無理なく暮らせる金額を稼げたら辞めるつもりです。この本が売れてくれるといいんですけど、いつになるやら。

太田 いつでもできるからこそ「辞める」と思わない限りずるずると続けてしまう。

渡辺 楽なんですよね。だから、流されてきたとも言える。ここでしか働けない人も多いと思います。

太田 たしかに。居心地がいいのかも。

渡辺 誰からも干渉されないし。もしかすると、みんなにとって自分の居場所なのかもしれない。

太田 危険ですね。よし、決めました。僕は『キングオブコント』の決勝にいったら辞めます!

渡辺 おおっ! 大胆宣言! 楽しみにしてますね! 

太田 頑張ります!

渡辺 配達中に顔を合わせることがないよう、お互い頑張りましょうね! 今日は貴重な時間をありがとうございました。

太田 ありがとうございました!

▲しばらくは配達員として頑張ることを誓うふたり
※編集部より:対談中は出演者・スタッフともにマスクを着用しています。
プロフィール
太田 隆司(おおた りゅうじ)
1987年8月8日生まれ。宮崎県出身。2010年に相方の有馬徹とお笑いコンビ・いぬを結成。ウーバーイーツが日本上陸して間もない時期から配達を続ける、元祖ウーバーイーツ芸人。特技は体を使った大道芸、フリースタイルラップなど。

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【書籍情報】
タイトル:アラフォーウーバーイーツ配達員ヘロヘロ日記
著:渡辺雅史
発売:2021年4月26日
定価:1,100円
ウーバーイーツ配達員として働く四十路ライターがつむぐ、悲哀と憂鬱の実録ドキュメント。