まことしやかにささやかれるプーチンの噂とは?
岡部 プーチンが出てきた頃、ロシアにいました(1996年〜2000年まで産経新聞モスクワ支局長)。彼は当時から「灰色の枢機卿」と言われました(笑)。KGBの長官で、サンクトペテルブルグからきていたものですからね。
エリツィンが後継者を探していたのです。エリツィン政権の第一副首相だったボリス・ネムツォフは最初の候補で、他に何人も候補になりましたが、結局最後に残ったのがプーチンでした〔ネムツォフはその後、反プーチン政権派の野党指導者となるが2015年に暗殺〕。
なぜ、最終的に彼に決めたかというと、当時、クレムリン周辺でささやかれたのが、エリツィンの次女のタチアナ・ユマシェワら、エリツィンファミリーがプーチンの弱みを握ったという話でした。なんだと思います?
馬渕 さあ、なんですか。
岡部 当時、まことしやかに言われたのが「プーチンはゲイだ」という噂です。エリツィン家がその証拠写真を握ったというのですよ。
なぜ、それがプーチンを後継者にする決め手になるかというと、ロシアでは権力者は退任して絶対権力を失うと、寝首をかかれるんです。韓国などのように、革命か暗殺か。平和裏に権力移譲されることが少ないからです。
だから、これは半分事実だと思っています。あれだけ用意周到なエリツィン家が、すっぱりプーチンに譲ったのは、相当な“弱み”を握ったと思われます。「裏切ったら、この写真出すぞ」と言って後継者にしたのだと思います(笑)。
何しろ、ロシア語で不都合な情報を意味する「コンプロマット」(中傷情報)と呼ばれる攻撃は、旧ソ連で政敵やジャーナリスト、高級官僚らを追い落とす手法として繰り返し利用されてきたためです。
情報の主流は男女の情事で、KGB〔ソ連国家保安委員会:ソ連の情報機関・秘密警察〕は本物か捏造かを問わずにスキャンダルを探すのが日常でした。
KGBの後継のFSB(連邦保安庁)長官だったプーチン自身、1999年3月、当時のエリツィン大統領と対立し、エリツィン家と側近の汚職捜査に乗り出したユーリ・スクラトフ検事総長とみられる男性が、サウナで裸になって女性と戯れるビデオ映像を撮影して、ロシア内外のテレビ局に持ち込んで放映し、失脚させています。
最高権力者だったエリツィンが、情報機関を総動員してプーチンの恥部を探し出すことは、いとも簡単だったと思います。
馬渕 なるほど、ありうる話かもしれませんね。まあ、この手の話は人の興味を引くだけに、すぐ尾ひれがついて独り歩きする側面もあるので、岡部さんのおっしゃった通り、話半分くらいが真実に近いのかもしれませんね。