絶対的な独裁者が好まれるロシア人の国民性

——2020年7月のロシア憲法改正で、プーチンが事実上の終身大統領になった件については、どう分析されますか。

岡部 本人よりも取り巻き連中のほうが望んだようです。今のロシアは、プーチン体制が強固でまとまっているからこそ、軍産複合体にしろ、情報機関にしろ、金融資本家にしろ、財閥にしろ、プーチン大統領の独裁的な体制を維持することで利権を享受できる面があります。

むしろ、その体制を変えると、新たな勢力争いが起きかねません。だから現状維持が望ましい。それであらゆる勢力を沈静化させておくことができます。もちろんプーチン自身も続投できれば、それに越したことはないわけです。

今度の改正で12年間は安泰となりますから、プーチンとしてはその間にじっくり時間をかけて、弱みを握らなくても寝首をかきにこない後継者を作るつもりじゃないですかね。

馬渕 私は独立後のウクライナに勤務した経験があるからわかりますけど、ウクライナを含めて、共産主義体制を経験した国では、野党の政治的保障がないわけですよ。ということは、権力を握らないとダメなんです。権力を失ったらもう命がない。

そういう意味では、我々が慣れ親しんでいる民主主義国家とは政治法則が違うのです。ウクライナもロシアも、我々が思っている民主主義国家にはならないし、なれない。民主国家になると、いろんな人がいろんなことを言いすぎて、国はまとまらないでしょう?

我々は自分たちの価値観で、強権政治的な体制じゃないほうがいいと当たり前のように言いますが、ロシア人の目からしたら、必ずしもそうじゃないのです。プーチンみたいな強い人がいてくれるから自分たちは安心できるんだ、と思っている。

岡部 そう、まさにそうです! ツァーリ(絶対君主)、強い独裁者を好む国民性です。

イワン雷帝〔イワン4世:初めて「ツァーリ」の称号を公式に用いたロシア皇帝。恐怖政治で大貴族の力を抑え、領土を拡大した。1530〜1584年〕しかり、スターリンしかりです。

▲イワン雷帝 出典:PIXTA

馬渕 岡部さんはご存知ですけど、ソボールノスチ精神というロシア人の考えかたがあります。ソボールノスチとは、ロシア宗教哲学の基本概念のひとつで、全一性、精神的一体感のことです。

この場合は、独裁者と自分を一体化することで、安全や安心を得るということなのだけど、そういう心情が市民のなかにある。だから、いくら我々がプーチンは独裁的だと批難しても、ロシア人にはなんの意味も持たないですよ。

岡部 国民がそういう強い人物を求めていますからね。ロシアの国民性なのでしょう。