2021年の12月で、ロシア連邦の建国から30年となります。つまり、ソ連が崩壊してから30年ということです。東西冷戦の象徴として描かれるアメリカとソ連。しかし、アメリカと比較するには、ソ連・ロシアは“ハリボテ”であると元駐ウクライナ大使・馬渕睦夫氏と、産経新聞社の前ロンドン支局長・岡部伸氏は語ります。

※本記事は、馬渕睦夫×岡部伸:著『新・日英同盟と脱中国 新たな希望』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

住んでみてわかる「ロシアの実像」

馬渕 私は北方領土交渉には直接関わっていないし、ロシアスクールでもなくて英語研修組です。たまたまソ連時代のモスクワに勤務しただけですけど、1979年夏から1981年秋まで住んでみたら、ソ連が超大国でないのはすぐわかりました。

結局のところ、ソ連は東西冷戦を仕組んだ勢力によって超大国に仕立てられ、アメリカと対峙させられたというわけです。

岡部 私もロシアに住んで“ハリボテ”であることがすぐわかりました。馬渕さんが一番はっきりと感じたのはいつでしたか?

馬渕 キューバ危機です。ケネディが本当に拳を振り上げたら、ニキータ・フルシチョフ(スターリン死後のソ連の最高指導者。1894〜1971年)が尻をまくって逃げちゃった、というのがキューバ危機の真相ですね。

▲フルシチョフとジョン・F・ケネディ(1961年・ウィーンにて) 出典:ウィキメディア・コモンズ

当時のケネディ大統領は、ソ連がアメリカ向けミサイル基地を建設したキューバを海上封鎖しましたが、ミサイルを積んだソ連艦船は、海上封鎖を突破することはせずに引き返しました。ソ連がハリボテだということを白日のもとにさらしたのです。だから、ケネディは東西冷戦を仕組んだ勢力に暗殺されたとも言えます。

▲キューバ海上封鎖宣言に署名するケネディ大統領 出典:ウィキメディア・コモンズ

実はそのことを、ソ連の外務大臣を1957年以降、28年間の長きわたり務めたアンドレイ・グロムイコ(1909〜1989年)が書き残しているんです[『グロムイコ回想録 ソ連外交秘史』読売新聞社/1989年]

キューバ危機後、ソ連との関係改善を考えていたケネディは、グロムイコに対し「米ソ関係改善を望まない勢力」としてユダヤ・ロビーを挙げたそうです。ケネディ暗殺の報に接したグロムイコは、回顧録のなかで「理由は不明だが、この時の会話が思い出された」と暗にユダヤ・ロビーが暗殺したことをほのめかしています。

▲キューバ港からミサイルを運び出すソ連の貨物船(アメリカ空軍の偵察機が撮影/1962年11月) 出典:ウィキメディア・コモンズ

私がグロムイコの回顧録を読んだのは、外務省勤務が終わってからですが、ソ連がハリボテだという印象が確信に変わりました。

そうやって仕立てられた東西冷戦という“擬制の世界支配体制”が、そのまま今日まで続いているわけです。だから、北方領土問題も彼ら勢力にとっては、日露が仲良くなるのを防ぐための道具なのですね。

産経新聞も含めて4島返還で世論が固まっていますから、反発を受けるかもしれませんが、北方領土問題は歯舞色丹2島で決着していいと思います。いいと言うか、そもそも日ソ共同宣言には2島でしか書いていませんからね。だから、まずはそれで平和条約を結んで、何年後かに国際情勢の変化の結果、ロシアが「国後・択捉も全部返す」って言ってくるのを待てばいいわけです。

ロシアはいずれ存亡の危機に直面する可能性がありますからね。彼らは広大なシベリアを守るだけで手一杯で、ちょっとでも隙を見せたら中国が入ってきてしまいます。それに、人口も減っている。プラス高齢化ですしね。

プーチンにとって、ロシアという国家をいかに守るかで本当に眠れない夜が続いているはずですよ。かといって、欧米と組んだらまたユダヤ資本がくっついてくるし、そう考えると日本しかないわけですよ。プーチンとロシアが頼る先は。