大切なのは「がん免疫サイクル」をまわすこと

がんのはじまりは、たった1個のがん細胞です。わずか1個のがん細胞が大きくなり、増殖し、検診などで発見されるようになるには10年から20年、あるいはそれ以上の年月がかかります。たとえば、40代でがんが見つかった患者さんは、少なくとも30代、早ければ20代には体内にがん細胞があったことになります。免疫力は年齢とともに低下しますが、20~30代といえば、人生のなかでも免疫力が高い年代にあたります。

また、がん患者さんのなかには、「がんになるまでは大きな病気一つしたことがない。風邪もほとんど引いたことがない」という方がかなりの数いらっしゃいます。これはつまり、がん以外に対しては、免疫は機能していたということです。それにもかかわらず、「がんになったのは免疫力が低かったから」と結論づけるのは、ちょっと無理があると思いませんか。

免疫を擁護するわけではありませんが、がん細胞が増殖している間も、免疫そのものは働いていました。「がんになるのは免疫力が低いせい」「免疫力をアップすればがんは治る」、そんな単純な話ではありません。

がん免疫サイクルを理解せずに、単に「免疫力を上げる」という観点で治療をしても、効果はあまり期待できません。いくら免疫力を上げても、がん免疫サイクルのどこかで起こっているトラブルを取り除かない限り、免疫はいつまで経ってもがんへの攻撃を開始できないからです。

銀行強盗にたとえるなら、強盗犯が誰なのか特定できないまま、あるいは、捜査できないよう抑え込まれた状況のまま、警察の人員だけを増やすようなものです。これでは、事件の解決は望めませんよね。

がん治療で重要なのは、がん免疫サイクルをまわして免疫そのものが、がんを退治できるようにすることなのです。がん免疫サイクルをまわすため、標準治療と代替医療、それぞれをうまく組み合わせる必要があると考えています。

先に、私は標準治療を否定しないと申し上げました。私が標準治療を否定しない理由は単純明快です。標準治療となっている抗がん剤治療や放射線療法は、がん免疫サイクルをまわすきっかけをつくるのに、非常に有効だからです。

たとえば、がんを発症してしまっている原因が、がん細胞が免疫をだましているからだと仮定してみましょう。がん細胞が抗原を隠したり、消したりしているために、がん免疫サイクルが「がん抗原の提示」でストップしている状態です。

このような場合、まず、がん細胞を壊して抗原を放出させるのが効果的です。これを、専門用語で「免疫原性細胞死を起こす」といいます。がんという強盗を倒して覆面を剥ぎ、「この顔と同じ細胞ががん細胞だ!撃退せよ!」と免疫細胞たちに知らせるイメージです。

免疫原性細胞死を効率よく引き起こせるのが、抗がん剤治療や放射線療法です。どちらも多くのがんで標準治療となっていますから、コストパフォーマンスもすぐれています。国民皆保険制度のある日本にいて、保険料を払っているのですから、標準治療を利用しないなんてもったいないと思いませんか?

▲柔軟に治療を利用することが一番 イメージ:ほんかお / PIXTA