「自分を他人と比べてしまって苦しくなる」人たちのために、仏教の教えから“心が楽になる方法”を解説します。僧侶であり看護師でもある玉置妙憂氏のオススメが「自分の儀式を決めておく」ことだそうです。プロスポーツ選手のルーティンも儀式の一種ですし、医療の現場では代替刺激による方法が取り入れられているようです。
※本記事は、玉置妙憂:著『心のザワザワがなくなる 比べない習慣』(日本実業出版社:刊)より一部を抜粋編集したものです。
心をリセットする「儀式」をつくる
比べる心を手放すのに「リセットのための儀式」を持つのがオススメです。たとえば「私はまた、あの人と比べてしまっているな」とか「自分は苦しんでいるな」と気づいた時点で、本当は8割解決しているのですが、もしもそこで「でも、やっぱり……」とネガティブな思考のループから抜け出せなくなったら、気持ちをリセットするための儀式を行なうのです。
ラグビー日本代表だった五郎丸歩選手が、キックの前に祈るようなポーズをしていたのを覚えている人も多いことでしょう。あれは、自分の意識を集中して、もっとも効果的にパフォーマンスを発揮できる「ゾーン」に入るための儀式(ルーティン)です。どんなピンチのときでも、それをやれば自分の「ゾーン」に入ることができるように、五郎丸選手は訓練を重ねてきたはずです。
多くのプロスポーツ選手は、そのように精神集中をする練習をしていますが、私たち一般人も、その練習をしてみるのです。それが身につけば、自分の感情をコントロールしやすくなります。
たとえば、コーヒーを飲むとか、深呼吸をするなど、なんでもいいのですが、何かしらの行動を「感情をリセットするための儀式」として、常に意識しながら行ないます。ただ漫然とコーヒーを飲むのではなく「このコーヒーを飲んだら、私は平常心に戻る」と思いながら飲むのです。
それを続けることによって、コーヒーを飲めば気持ちが落ち着き、ほかの人と比べたり、妬んだりイライラしている気持ちを流し、本来の自分にリセットできるようになってきます。アロマなども、いいかもしれません。ラベンダーの香りをかぐとスッキリして、それまでの流れが全部断ち切れて自分に戻る、というふうに決めておく。
顔を洗う、ヨガのポーズをする、ストレッチをする、ペットや子どもの写真を見る、象徴的なものに触れる……なんでもいいのです。手を組むのでもいいし、自分のおでこに触るのでもいい。苦しくなったら、ぎゅっと自分を抱きしめてあげる、などでもいいです。自分の生活に取り入れやすい儀式を作っておきましょう。
それを、しっかり自分自身に意識づけることが大切です。「たまたまコーヒーを飲んだら落ち着いた、コーヒーってすごい」という話ではなく「私はマイナス感情にとらわれたとしても、コーヒーを飲めば断ち切れる」と意識的に訓練をして、そういう自分を作り上げるのです。
できることなら、匂いをかぐ・見る・触れる・音を聞く・味わうなど、五感と結びついているものがオススメです。なぜなら、視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚の五感は、大脳皮質とつながっているために感情を左右しやすいからです。
ふとした香りや音で、昔の記憶が呼び覚まされることもあるでしょう。たとえば、お寺などで「チーン」という音を聞いたときや、線香の香りをかいだときに厳粛な気分になるという人も多いかもしれません。
それは五感がダイレクトに刺激されているから。五感によって、ここは神聖な場であると意識づけられているのです。ですから、五感をうまく使えば感情をリセットしやすくなるのです。
バカバカしいと思っても続けることが大事
医療の現場でも、こうした儀式は使われています。たとえば、やめたいのにどうしてもタバコを吸ってしまう、お酒を飲んでしまう、という依存症の患者さんの腕にゴムの輪をつけて、その行為をしたくなったらゴムをパチンと弾く、という方法があります。これも感情をリセットするための儀式です。
ただのゴムの輪では、あまりありがたみを感じないかもしれません。たとえば、どこかの神社で気に入って買った数珠だとか、大事な人にもらった腕輪に価値や意味を感じるなら、それを有効利用してもいいでしょう。
それでも最初のうちは「こんなことをしていても意味がない」とか「時間の無駄だ」などのバカにする気持ちが出てくるかもしれません。でも、そう言いながらでもいいのです。とにかく続けてみてください。バカバカしいと思いながらもやっていくうちに「あっ」と驚くときがくるはずです。
これは基本的に仏教で僧たちが行なう修行と同じです。何かにしばられそうになったら、そこから離れるという練習です。こうした練習をしばらく続けるうちに「コーヒーを飲めば落ち着く」という状態をつくるのが上手になってきます。すると今度は、コーヒーの見た目や味や匂いを思い浮かべるだけで、落ち着けるようになってきます。
これは「観想」という、瞑想の方法のひとつによく似ています。あらためて「人と比べるのをやめよう」とか「イライラするのをやめよう」と思っても、それをやめるのは難しいことです。ですから、比べるのをやめる方法ではなく「比べる自分から戻る方法」をいくつか持っておくことが大事なのです。