スピリチュアルケアに従事する僧侶の玉置妙憂氏が、多数のがんや難病の患者さんに勧めているワークが、2枚の紙を用意して良いことと悪いことに分けて書いてもらう方法。繰り返していくうちに客観的に自分を見ることができるようになっていき、自然と心が落ち着いていきます。

※本記事は、玉置妙憂:著『心のザワザワがなくなる 比べない習慣』(日本実業出版社:刊)より一部を抜粋編集したものです。

良いことと悪いことを書き出す

私は、がん患者さんにこんなワークをオススメしています。それは「がんになって失ったもの、損をしたこと」と「がんになって良かったこと、得をしたこと」の両方を患者さんに書いてもらう、というものです。2枚の紙を用意して良いことと悪いことに分けて書いてもらいます。

▲良いことと悪いことを書き出す イメージ:PIXTA

たいていの患者さんは、がんになったばかりの頃は「失ったもの」ばかりを書きます。ところが、その行為を繰り返していくうち「良かったこと」が徐々に増えていき「失ったもの」が出てこなくなるのです。

このように、がんという大病になっても、そのなかから得られるものがあるという気づきのことを「キャンサーギフト」といいます。周りの人の温かみがわかった、一日一日の大切さを感じた、素晴らしい友人ができた、自分の大切なものがわかった……など、がんを経験したからこそ得られたもののことです。

この書き出しを行なっていくうちに、多くの患者さんが変わっていきます。自分の病気のことしか考えられなかった視野が広がり、客観的に自分を見ることができるようになっていくのです。すると、自然と心が落ち着いていきます。

これまで多数のがんや難病の患者さんと接してきて感じるのは、人間というのはどんなときでも、良いことや素晴らしいことを見つける力を備えているということです。

本来、人間は自分で自分を救うようにできているのかもしれません。

自分が人と比べてしまって苦しいときも、この方法は有効です。自分は何に心をとらわれているのか、何に怒りを感じているのか。ぐちゃぐちゃとした部分も全てとりつくろわず、思いつくままに書いてみましょう。

自分の気持ちに素直になって、ネガティブな感情の「Aさんに負けて悔しい」とか「いつか引きずりおろしてやる」と書いたら、一方の欄にはポジティブに感じられることを書いてみるのです。すると、Aさんに対する憎しみだけに向けられていた視野が広がり、客観的な考え方に変わっていくはずです。

気持ちが落ち着かないときは書きたいこともいろいろ出てくるでしょう。でも、落ち着いてきたら書きたい気持ちも徐々におさまってくるはずです。ですから、書く日は特に決めず、モヤモヤしていると感じたら書くこと。それによって自分の気持ちを客観的に見つめ直すことが大事なのです。

▲モヤモヤしていると感じたら書いてみる イメージ:PIXTA

「中道をいく」という仏教の考え方

こっちが良い、こっちが悪い。こっちが正解、こっちは間違い。でも現実の世界では「正解はひとつ」ではありません。100%良いことも、100%悪いこともないはずです。犯罪を犯した人もそうでしょう。その人だけが100%悪いわけではないことも多いはずです。何が正解かなんて、誰にもわからないのです。

仏教では、これが良い、これが悪い、とは決めつけず、常にバランスを保って道の真ん中を歩いていきましょう、という考え方を重んじています。つまり「中道をいく」ということです。どんなときにも良い面と悪い面の両方を考えてみること、道の真ん中を知るためには、道の右端と左端を知っておく必要があります。

自分の心を客観的に見たとき、自分の中の悪い面やどす黒い部分に気づいてしまったら、思わずそこから目をそらしたくなるかもしれません。あるいは「私は、なんてダメな人間なんだろう。良い人間にならなければ」と悲観したくなるかもしれません。そうではなく、そのまま受け止めてください。「これも私の一部だ」と認めるのです。良い面も悪い面も自分の一部であって、それが全てではありません。

また、それは他の人に対しても同じです。

自分にも良いところと悪いところがあるように、嫌いなあの人にも良いところと悪いところがある。また、自分が「絶対」だと思っている価値観も、時や場合によって変わってくるはずです。

▲良い面も悪い面も受け入れる イメージ:PIXTA

人によって良いと思われることが、他の人にとっては悪く思えるかもしれませんし、誰かにとっては羨ましいと感じることが、他の人にとってはどうでもいいことかもしれません。わかりやすい「正解」は、ないということです。

あなたが感じている価値観は、絶対のものではないということを忘れないでください。