読むのに1分もかからないシンプルな「一文」が人生を変えてくれるかも。何かに悩んでいるときに、答えに導いてくれるのは「本」かもしれない。日本一書評を書いている印南敦史さんだからこそ見つけられた、奇跡のような一文を紹介します。

人生を変える一文 -ヴァージニア・ウルフは、かわいい

▲かわいいウルフ/小澤みゆき:編(亜紀書房社:刊)
モダニズム文学の旗手であり、フェミニズムなどをテーマとした作品を発表。 “時代を切り拓いた作家”として、世界的に再評価されているヴァージニア・ウルフ。いま現在も多くの読者の心を打ちながら、その一方で“難解”とも評される彼女が残したことばの数々を、“かわいい”という切り口から捉えなおし、あえて主観的にその世界と向き合ったのが、今回とりあげる『かわいいウルフ』です。

観る価値のある数分間の“やりとり”

少し前、Netflixオリジナルの『最高に素晴らしいこと』という映画を観ました。

たまたま見つけただけの話なんですけどね。

それにしても……なんといいますか、観ようという気にさせない邦題です。なんで、こんな安っぽいタイトルにしちゃったんだろう(ちなみに原題は『All the Bright Places』)。

と思っていたのですけれど、調べてみたら理由がわかりました。ジェニファー・ニーヴンという作家による2015年の同名作品を映画化したもので、その日本語版のタイトルが『僕の心がずっと求めていた最高に素晴らしいこと』だったようなのです。だから、映画にも似たようなタイトルがつけられたわけですね。

ちなみに気になって仕方がなかったので、いまこれを書きながらAmazonでポチってしまいました。また本が増えちゃったぜ。

という話はともかく、いずれにしても観るまではたいして期待してなかったということ。ところが結果的には、心に残る、とてもいい映画だという印象が残ったのでした。

あえてストーリーは書きませんけれど、それぞれ心に傷を負った高校生カップルの、繊細な関係を描いた作品。決して明るい内容ではなく、それどころか重たくもあり、ましてやハッピーエンドでもないのに、なぜだか観終えたあとにモヤモヤしたものが残らない。それどころか、いろんなことを考えさせてくれる、不思議な心地よさのある作品なのです。

だからNetflixに入っている方には、ぜひ観てみていただきたいと思います。

なお余談ですが、主人公の男の子は、同じNetflixで少し前に話題を呼んだヒップホップ・ムーヴィー『Get Down』で主役を演じてた子ですね。

で、その男の子と女の子がメールでやりとりをする場面が、すごく印象的だったんですよ。直接的にストーリーとは関係ないのですけれど、そこがいつまでも記憶に残ってしまって。

まず男の子のほうが“あんな経験はもう二度と嫌だ”という、作家のヴァージニア・ウルフの作品から引用したワンフレーズを送る。

すると女の子もウルフの名前で検索し、“なぜ男性は女性に興味を持つのか”という一説を見つけ出してそれを送る。

そんな感じで、しばらくの間、ウルフの作品から引用したフレーズだけでオンラインでの会話を続けるのです。そして、それがきっかけで、精神的なつながりがなんとなく深まっていくわけです。

それだけなのですが、この数分間のやりとりのためだけにでも観る価値はあるな、と感じさせて説得力があるのです。

そして僕はこの場面のおかげで、改めてヴァージニア・ウルフの作品を読んでみようと決めたのでした。

参考までに書き添えておくと、ウルフは19世紀末にモダニズム文学の旗手として名を残した作家。レズビアンであったりとか、作品以外にもエピソードを残した人であり、数々の名作を残しもしたのですが、最終的には自ら命を落としています。